百の玉が入った福引がある。“当たり”の赤玉は一つだけで、残りの九十九玉はハズレである。
あなたは、この福引をどれだけ回そうと自由である。ノーリスクで、ノーコストで、何回でも回すことができる。当たりの赤玉が出るまで回して構わない。
あなたは福引のハンドルに手をかける。
さて、一発で赤玉を引く確率は何パーセントだろうか。
一パーセントと答える人が多数派かもしれない。
もしかしたら、その計算は合っているのかもしれない。
あなたは、一発で赤玉を引いた。
しかし、なんの感動も興奮もない。
なぜなら、『当たるまで引ける』から。
眉唾物どころか、酒場の与太話にも足らないかもしれない。けれど、誰でも胸に心当たりはあるはずだ。“傾向”として、そういうものなのだ。
『当たるまで繰り返して良い時、一発で引いてもおかしくない』
“だから”、花見が一人目にこの男を引いたのは、奇跡でも御都合の良い話でもなく、ごく自然な話なのである。
○
少年は、わりになんでもできた。
後藤輝幸十一歳、市立港北小学校六年生。少年は、同年代の子と比べて少し頭の回転が速かった。少し、運動神経に優れていた。顔が良かった。己の自信と自負に支えられ、社交性に富んでいた。クラスメイト達と円滑な人間関係を成し、理想的な小学校生活を送っていた。
別に、乗り気ではなかった。
周囲が勝手に、標的を花見にしたのだ。少年は乗り気ではなかったが、空気の読めない奴だとは思われたくなかったので花見イジメに加担した。加担したと言っても、直接なにか手を下すようなことはなかった。花見の首に腕を回す友人達の様子を一歩引いたところから眺め、笑っていただけである。だから、他の奴らよりは自分はマシだと思っていた。花見にも、そこまで嫌われている気はしなかった。
助けることもできないけど、酷いこともしないから。だから良いだろ? 花見。
少年は、胸の奥で己を慰めた。仕方がない。花見を
ごめん、花見。
己を納得させるために心の底でそんな風に謝ってみても、相手には決して届きやしないというところの理解が、少年は少し足りていなかった。
「輝幸ってさ、花見に何もしないよね」
帰り道、クラスのガキ大将がぽつりと言った。たしかにー、と周囲も同意する。
「嫌なの? 花見イジメ」
ガキ大将は、試すような視線で少年に問うた。
「お前、裏切んのかよー」
冗談半分、本気半分。そんな調子で周りは野次を飛ばしてくる。
「何言ってんだよ、そんな訳ないだろ」
「別に、嫌なら止めないよ。無理強いすることじゃないでしょ、こんなの」
あくまで物腰柔らかい口調でガキ大将は後に続ける。
「でも、僕らはこれでも一応仲間意識持ってやってるからさ。輝幸も、少しくらい参加してくれても良いんじゃない? 大丈夫、そんなヤバイことなんか頼まないからさ」
少しくらいなら……、と少年は思った。
「……たとえば?」
そうだなあ、と、ガキ大将は考えるフリをしてみせた。
「おい、花見、池の中を見てみろよ」
翌日少年は、花見にそう言付けした。
少年が直接花見イジメに参加したのは、後にも先にも、ただのこれだけだった。本当に。
●四月二十五日(土曜日)
少年は、地獄を見た。
なんでこんなことに? と、何度も何度も心の中で唱えた。意味が分からなかった。己の運命の呪った。