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「太陽の眷属」   黒兎玖乃 作
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=17704

ほんにこの方の量産ぶりには感心するばかり。
さらに作品の毛色を変えながら毎度読み手を魅了してくれます。
すでにツイッターやラジオでご存じの方も沢山おられると思うところ。
黒兎先生この度、文芸・ニノべ作品感想企画の感想担当3代目についてくれました。
今後自作品の連載や新都社外での活動もあり、ますます多忙になるかと思います。
くれぐれも体を壊さないようにしてほしい。
いや、ホント……ね。



■各話ごとの感想
1 「そこに太陽があるから」
1~6
名家の実家から高校入学を機に矢萩台へ出てきた主人公・小此木千紘。新生活で初の友人・能登大輔は自分とはかけ離れた肉食系に映る。
一見主人公は病んでいるのかと思ってしまう序盤。心配なかれ読み進めるほどにかまされる千紘のドジッ子根暗グズっぷりに笑ってしまいます。
舞台となる土地(矢萩台)の情景描写にも、作家さんの嗜好が含まれているのでしょうか、熱がこもっているように感じられました。味わいがあって惹かれるところがあります。こういう作品にはこんな音楽をバックグラウンドに映像で見てみたいと思わせてくれます。
コメント欄はやくもBL疑惑(認定)に草。

7~14
能登くんに弁当のから揚げをカツアゲさる千紘。ある日、過去の自分を知る男子生徒に発見され理不尽な脅迫をうける。
千紘の凹られるところ、作家さん熟練のグロ描写が光っていたw 痛さが背筋に走ります。男子高校生がスタンガンとか持ち歩くって凶器だろうけど、腐的発想だと男色除けに使うために持ち歩いてるって見方もできるのかな……。(コメント欄参照による考察でした)
千紘とは対照的な性格の能登くん。男気を感じられる場面があり爽快です。嘘をついてる千紘をあっさり見抜いていて、まあ、バレバレなんですけどね、そんな千紘の弱さを責めるのではなく、悪行を正してならず者を裁くさまがかっこいいところでした。
余談ですが、本作とアルマイト先生の「ねむりひめがさめるまで」の読書によってから揚げとコロッケという無体な飯テロをくらっていたのは言うに及ばない事実である。

2 「ひぐらしの旋律」
1~6
何かの部活に所属しなければいけない矢萩台高校。千紘はどの部活にするか決めかねていた。
自分にできないことを出来る人が、それをしないさまを見ているもときのどかしさ。
千紘が能登くんを前に口にする場面。この気持ちに共感できることは日々よくあります。
せっかく特技をもっているのに、その人にとってはもうその特技を続けることは終わってしまっている現象。勿体なく映りますね。そこには色んな理由があるのだろうけど。稀にその理由にふれるのを恐れることもあったりしませんか?

7~11
千紘が幼いころより持ち続けているサムピックのペンダント。彼は音楽をやっていればいつかそれをくれた少女に出会える望みを持つのだった。
「かっ食らう」いい表現だ。かっ捌くと感じは似ている。勢いのある図が浮かんで音が聞こえてきそう。
ようやく女子の登場が始まったwといってもあまりぱっとした雰囲気がないのを見ると、いつまでもBL扱いのつっこみは絶えないもよう。まあいいや。

3 「好きこそ物の上手なれ」
1~5
いつもはのどかな屋上にハイテンション女子降臨に悩める男子二名。部活のほうでも何やら影がさす能登くん。一方千紘は音楽への造詣を徐々に深めていく。
ひぐらし楽団の財前部長はいいことをいいますねえ。
個人的には人の肉声も楽器の一部と考えるので、この方の音楽説明は的を射ているのはと思える部分がある。声が歌詞をなぞり旋律となればそれは音楽。楽器が旋律を奏でるのと何の違いがあるだろうと。
奏でられるという現象にひとは魅入るのだろうと……。その先(歌い手がすきとか歌詞がどうこう)はまた別で。音楽の薀蓄はよく分かりませんけど、まあ、失敗すらも演奏というのは肩がこらなくて癒されます。

6~11
人より突出しすぎる技は孤立を生むのか。能登くんは水泳部という居場所をうしなうこととなる。そのことで自責の念に駆られる千紘だった。
部室に能登くんが現われる。動揺する千紘が面白かった。ガクブルなってる。



■今回更新までの総括的感想
文や言葉が多く書き込んである作品を読むのとはまた異なった感覚で読める一作でした。
主人公のグズっぽい語り口が文体からうかがい知れるように書かれていたところに面白さを感じます。説明しづらいのですが、顎男先生の「壁の中の賭博者」の主人公も独特なグズの語り口でした。あれに負けないくらいのインパクトがあると思います。
主人公・小此木千紘は、能登君との出会いや部活動によって緑豆もやしから大豆もやしくらいに作中で成長を遂げていくように見えるのが読んでいて楽しい。決してすぐに大きく一歩を踏み出さないけれど、心でこうなるんだと決意しながら変わろうとする千紘を応援したくなります。
本作では印象深い部分というのは文章としてあまりなかったのですが、作品の持つ独特な持ち味が非常に魅力的。読む人によってはその辺をBL作品とみて楽しんだりもできるのでしょう。一理ある部分はたしかに否定できないと感じましたw その辺の楽しみ方は人それぞれなので良いでしょう。
ただ、作中にある小此木千紘とその周りの人物の関わりに温かさがあるのは読んでいて安らぎになると感じます。
努力や頑張りは大切なことではある。食らいついて直向きになることも大事なことである。確かにそういう人間は美的に見えるだろう。正しきあり方にも見えるだろう。それはよく理解できるのだけど、そればかりを押し付けてこられるのに周囲は重さを感じることもある。受け入れたり受け入れられたりするとはどんなことだろう。そういうのを考えさせられました。
能登くんもひぐらし楽団にまざり物語は盛り上がってきた。今後にも期待です。
もうすぐ完結っぽい? わりと長くなってきたよねこの作品。
これからも楽しみです。



■作中印象深かった箇所
・箸は綺麗に割れず、片方が少し短い。
さりげないダサさ。悲しくも身も蓋もない小此木千紘の低スペック感を見ている気がする。良い。
・下僕
ワロタ。げぼくだ! 拘束期間三年か。
・「あの子の、……生徒手帳」――以下略――「名前は藤咲希美さん、か」
千紘の小者さが滲む部分。そんなに怖がらなくてもいいのに思春期のもやしってやつあ~難儀だな。
・「叩くだけ……っすか」――以下略――脳内に、在りし日の言葉が響く。
ワロタ。ぽんぽこぽーん! 叩き魔。



以上この作品に関する4日更新分の感想はここまで。


       

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