「週末のロストマン」   硬質アルマイト 作
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=15812

本作の登録はなんと2013年12月31日。大晦日の登録。年末といえば仕事納め。そこをあえてこの日に連載スタート。作者何があった。いや、特に何もないだろうけど。
こちらの作家さん、実は文芸で連載作品が多いです。さらに完結作品も多く手堅く読者を安心させてくれるあたり固定の読者を得ているのではないでしょうか。一口で言いうには難しいが、どの作品も個々に「共感」や「惹かれる」ものを書いてくれます。それでいて個性的。また、音楽的な面においても多聞に漏れずその才を発揮されておられるよう。文芸作家の間ではイケメンバンドマンとして眩しく輝く存在です。しかし不思議と妬みを買うことはなく深い愛情で周囲を溶かし込んでしまうのは他ならぬこの作家さんの魅力でもあるのでしょう。何を隠そう登録作品最古のものは2008年。そのキャリアが示す文章には鮮やかな魅力と他にない確かな力量を感じることができます。ある日サラッと受賞して作品なくなってしまわないように未読の登録作品は要チェックでいこうと思います。


■各話ごとの感想

第一話 ライドオンシューティングスター
音楽(バンド演奏)を志す大学生の主人公・古都原鳴海。忘れられず鮮明な記憶で残る昔見たアニメ。自分はずっとそれを追いかけていた。だけど現実、今では――。
鳴海、昨今の音楽活動がつまらないのか友人・沙原の不興を買ったっぽい。大丈夫?
音の表現、「エレキベース四弦開放」ときた。むむ! 作者の音楽への色濃い傾倒を思わせる。
楽器を持って走るのはホント辛いです。あれ、慣れるまですごく大変。でもあの幸せ感は音楽やってる者にしかわからない。演奏意外に利便性を楽器に組み込めば特許が取れないかなぁ。
突如現れる現実世界の擬似空間に鳴海困惑。そこで出会ったのはなーんだ。
凡人だったら異空間に放り出された時点であわあわなって的確な判断なんかできないです。その辺踏まえても鳴海はよく頑張ったと思いました。

第二話 ムーンマーガレット
現実では頭脳明晰な優等生お嬢さん。疑似空間モッシュピットでは破天荒なムーンマーガレット。二つの顔をもつ白部律花の登場。彼女の装具はギブソンSG。ええギターですなぁ。日本だと定価20万前後から高価なものは30万以上ですかね。高校生がそんな……。うちに転がっているのはせいぜい中古の5万以下が2本ですわ…。
どこぞのバンドマンが勝手につけた横文字に笑った。
鳴海はモッシュピットのことを少しずつ知ることになっていきます。
律花のキャラ、このギャップで楽しませてくれる良い回でした。律花の戦闘後、鳴海のセリフにも興味がそそられる。

第三話 ローファイボーイ・ファイターガール
厳格な父を持つ律花、彼女は日常本性を偽って仮面をかぶり続けて生活している。小器用にやっているように見えるけど、いつか破綻しないのかな……彼女、心配である。
また鳴海にとっても沙原のように理解しあえる仲間は現実に置き換えても貴重だと思いました。大事にしてほしいですね。この先鳴海がどの道を選ぶのか沙原は問いますが、その決断、鳴海は既に決まっていそうに思えた。そりゃね…。
さらにミュージシャンに対するファン心理や、若者が社会に感じる漠然とした自分の置き所でもがく無常観もおりまぜてうまく作品に絡めて表現されていたと思う。考えさせられる部分があった。
律花と対戦する女性プレイヤーもなかなかの小細工を仕込んで戦闘シーンを読ませてくれました。
音楽世界の言葉遣いも多くて、随所にあるそれら個々がなるほどと思わせられる使い方。
上手いな。いいぞ!
擬似空間モッシュピットで伝説になった男性プレイヤー、ラストホリデイの登場でした。

第四話 レモンドロップス
おいしそうなタイトル。
擬似空間でプレイヤーが所属するギルドのようなもの、それが「レーベル」。これができたのは一年前。プレイヤー同士による抗争以来。そこから話は始まります。鳴海とともにモッシュピットの世界を読者にやさしく追わせてくれます。うんうん親切だ。
同時に鳴海と話すジョニー・ストロボという人物の語りがこれまた仏僧のように深く面白い。
一方律花は転校生の弦子と親睦を深めています。そこで生じる律花の小さな不安、彼女の内面が危うく揺れ始めています。作家、なにかたくらんでいる気配。
学生のとき、そういえば軽音部員は特に何でもロックにして世の中の説明がつかない現象を片付けていたような記憶があります。だからロッケンローラーはせこい!(褒めている)
友人の沙原との別離の末、鳴海はちょっといい体験します。ベンチで酔いつぶれて寝ていられる国日本。いいところだなあ。
そんなこんなで? 鳴海はとあるレーベルに参加することが決まったのでした。
そこで出会ったある女性プレイヤーの名前こそ――。

第五話 ブラック・シープ
レーベルには入ったものの、擬似空間での装具となる楽器が顕現できない鳴海。使えねえ人材となるのでしょうか。不安も抱えつつ実戦へ投入されていきます。
そのうえ鳴海は助けた少年・砥上雪彦に入れ込んでしまいました。雪彦に投げかけた鳴海のストレートにいい言葉。心に沁みます。この作品の中で使われているから余計にそう思うのでしょうか。さすがイケメン作家です。
困ったときの池田さん。かれは物語の序盤に出てきたプレイヤーです。たびたび鳴海は彼と会いながらモッシュピットのことについいて知識を増やしていきます。この物語を読み始めた当初、池田さんをいけ好かない野郎と思ってたんですが、戦わなければ実際普通にいい人でした。お話のここら辺までくると誤解していたことに申し訳なくなりました。 池田さんごめん。
幸彦の心の闇、それは現代の学校社会が抱える普遍的問題のひとつ。誰にでも常に隣り合わせにあってなくならないのは何故だろう。的を欲しがり礫を投げたがる者の心理、我慢する者の心理、それは日本独特の負の精神的慣習ではないかと思います。理想を述べれば、誰もがもっと気楽に顔も中身もわせられたらいいだろうにと思いますね……。

第六話 バッドドリームス
律花が疲れています。そんな彼女により添う弦子。
律花の重要な秘密を弦子は既に握っていました。そこで彼女は一計を案じて行動に出ます。
さてその結末どうなるか……。
今回、作者にまんまとはめられてしまった読者の一人がこの私。トリックなんかない話に書いておいてあとでさりげなく実はねって種明かす策士っぷりが憎らしい。作者油断も隙もないな……ちくしょう。
さすがイケメン作家。サプライズプレゼントで女子を喜ばすみたいなテクですね。よくぞやってくれた。なんてこった!(壁なぐる)

第七話 プリーズ、ミスターロストマン
「馬鹿だろ、あんた……」年下からのこの突っ込み! 鳴海は一貫してどことなくダサさを残す主人公に書かれています。しかしキモさ全くない。まあダサくてキモかったらただのお笑い主人公にしかならいのですが。鳴海のダサさはおそらく、誰にでもあるような、現実的な意味でのダサさ。そこに共感や親しみを覚えたんだと思います。だから彼は魅力的な人物に映る。このダサさの匙加減、とても難しく、作品を作るうえで上手くやらないとキャラがぶれてしまうこともあるんです。執筆初心者にはそこらへん良い手本になると思いました。キャラクター作り、重要ですね。ホントに。
意表を突かれたプレイヤー出現。その正体に律花は苦戦どころか戦意喪失します。相手が相手だからしゃあないか。そこで参戦するのが鳴海なのですが……。
新出単語その1「プライベートキングダム」 要チェックです。
この先物語が進行していくにつれて重要になってくる世界がここでは描かれています。そこで鳴海が出会う人物も後に会うことになるでしょうが、どんな話の展開を見せてくれるのか期待が高まります。
新出単語その2「カーニバル」要チェックです。

第八話
うーんここねー。内緒というか、書きたくないですねえ……、わはははは。書いてますけど。
書いたら何か重要なことポロって吐いてしまいそうで嫌ですねえ……。
散々これまで暗幕内にいた鳴海、スポットライトを浴びるときです。うわっはー。
それだけにしておきます。ここ、更新量も少ないです。だからすぐ読めます。
この先気になります。作者どう転がしていくでしょうねこの物語、キ タ イ


■深夜に現れる擬似空間モッシュピットで繰り広げられる壮絶な音のぶつかり合い、その先にあるのは………。
なんと難しい、あるいは親しみやすいともいえる「音楽」を題材にした物語です。そこには社会のゆがみや人々が抱える辛い現実も絡まって時には重く書かれています。ライトノベルでありながらそういった深いところにも触れてくれるのは文芸畑でしっかり揉まれてきた作家のシナリオないしプロット構成力からくるのでしょうか。単純な娯楽的小説とは一線を画しているように思われました。読み進むほどに想像以上の完成度が見えてきます。この良さはなかなか伝えるのが難しい! しかし読み手には書かれている内容以上「想像させる」「考えさせる」「感じさせる」といった感覚に訴える部分に秀でた作品になっています。少なくとも私はそう感じました。
音楽的な知識からくる専門用語も多くみられましたがそれらがどれも物語の中でよく映えて、しっくりとした使い方をされている。作家のセンスの賜物ですねこれは。ともすれば作品のノリは異世界ノベルと似通うところもあるのですが、この作品では現実世界にもちゃんと登場人物の生業も書かれています。そしてそこに書かれているものに共感を覚えたり、教えられたりすることが多々ありました。作家の意図、伝えたいことが明確に伝わってくる作品であると思いました。割と手堅い! ライトでありつつ読み応えあります。こういう作品も面白いですね~。凄いです。まいったまいった。


■作中特に印象深かった箇所

・社会人になって仕事して、ちまちま休日にライブができたれ関の山だ。
現実! そうなのです。社会人になると、また結婚をすると、そして子持ちになると、驚くほど自分の好きなことにのめりこむ時間なんてなくなります。同時に心のゆとりもなくなります。学生身分の間にやりたいことは存分にやっておきましょう。
・――何故、ギターの「ネック」の方を握り締めているんだ。
これ、なかなかぴんとこないかもしれませんが、ネックに重心をおいて握り締めると、構造上ネック部分にいらない負荷がかかって良くない持ち方になる。ギターはラッケトではありません。弦楽器全般に言えるでしょう。
・アンプはおそらく彼自身だ。
これも!音楽的表現。でも凄くしっくりくる。アンプの役割を理解できればなおのこと。
・『「世の中で我慢してる人ってたくさんいるし、それを十分に発散できている人なんてごく少数にみたないじゃないですか。――以下割愛」
我慢って良くないですね。我慢。これ凄く疲れる字面だと思います。我を慢ずるって書くんですよ。ひどい。
・「なんでアンタの楽器、壊れてんの……?」
うん。正しい!普通そうなるよね!! 壊れるよね。
・引き伸ばされた数秒の中で、鳴海は心地よさを感じていた。
数秒の中にあるつながった映像が刻々と終わりに近づいていく様が伺える。良い!
・この楽器は、まだ人を知らない楽器だった。
うん。じんわりとくる表現。良い!
・「実際に他の人や景色を見て、そして探すんだよ。――以下割愛」
見てるだけじゃ駄目なんだぞ!探すんだぞ!探すのは自分で探すんだぞ!分かったかー。(ナニサマ発言)
・「ああこの人はこんな事が癖なんだ、こういうことが苦手なんだなって安心する。そのほうが温かみがある気がするの」
こんなこという女子が出てくるからから男子がいつまでたってもヨレヨレ駄目人間で……こんな大人になってしまう(ガクブル)
・受け止め、調和する力だ。
まさにベース。良い!


以上この作品に関する13日更新分までの感想はここまで。