Neetel Inside ニートノベル
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「畳み掛けるぞ」
「よっしゃ」
拳を振り抜き即座に体を前方に倒して足を踏み出す。瞬時に傷を完治させた東雲もそれに続いて昏く淀んだ瞳で四門の姿を追う。
「神門ォ!!」
側頭部から血を流す四門が激昂しつつも短刀を突き出す。空間に開いた門が俺の眼前に煌めく刀身を出現させる。
疾走したまま体を捻って回避、次いで腹部に向けて飛び出た刃を身を翻して躱す。
これで門は使い果たした。刃を戻し再度迎撃に使うより前に、
「おっらあ!」
東雲の攻撃の方が早く届く。
「うぜえ!」
ガガギンッ!!
素手と短刀がおかしな音を立ててぶつかり合う。東雲の皮膚が裂けるが、ただそれだけだ。刀を弾いた両手は原型を保っている。
やはり“憑依”の強化は人間離れしているな。
弾いたタイミングで俺も突っ込み握り締めた拳を突き出す。が、これは門に呑み込まれあらぬ方向へと飛ばされる。
これに対応することは出来ない。為す術もなくただ攻撃を無効化されるしかない。
だがこれでいい。門を使わせることに意味がある。
俺は門に腕を通したまま、片手で四門の攻撃を受け流す。
東雲の考えでは、四門の使う門は、開いている間にそこを通過しているものがある限りは門を閉じることが出来ない。つまりこのまま腕を門に入れておけば門は使用不可になる。
どの道俺では四門と闘っても勝ち目が薄い。申し訳ないがこの場は東雲に任せる。
「邪魔くせー…なんなんだよてめーはッ!」
残り一つになった門を防御と攻撃で交互に切り替えながら両手の短刀と組み合わせて闘う四門が、ことごとくを迎撃あるいは防御からの瞬間再生で持ち直す東雲に苛立ちをぶつけた。
「んな半端な混ざり方してるクソカスに肩入れするとかバッカじゃねーのか。てめーになんの利益があるってんだ」
「利益なんてねえよ!オレは恩を返してるだけだからな!」
とうとう東雲の右手も門に捕らわれ、それでも残った左手と両足で器用に跳び上がりながら人外じみた動きで攻防の均衡を保ちつつ東雲も叫ぶ。“再生”の調整が追い付いてきたのか、昏い光を宿していた瞳が元に戻りぎこちない話し方も活力を取り戻したものになる。
「お前こそなんだこの野郎!半端とかモドキとか、何言ってんのかさっぱりわかんねっつの!」
「てめー如きにわかられちゃ、こっちが困るってーんだよこの死に損ないが!」
互いに吼えながら鎬を削り合っていたところだったが、俺にもそれは気になっていたことだ。ちょうどいい。
「なら俺如きにならわかるのか?神門モドキってどういう意味だ、モドキも何も俺は神門守羽だ。間違いなくな」
「ハッ、どっからその自信が来るんだかなー…てめーみてーなごちゃごちゃ混ざった雑種風情がよくもまあ」
二刀と左腕を至近で押し付け合っている最中、四門は俺を冷たい瞳で睨んで歯噛みする。
「てめーは神門じゃねー。神門なわけがねーんだ。四門として、てめーを断じて神門だなんて認めねえし、許さねえ」
「なんだよ、それは…」
言っている意味が一片たりともわからない。
「いいから殺されろよ、その方がてめーの為だ。どーせ今後、ろくな人生にならねーんだから今の内に終わっとけ」
「「っざけんな!!」」
意図せず俺と東雲の声が重なる。驚いたのは俺だけだったが。
「勝手に決めんな!こいつが死んで不幸になる人間だっているんだよ!お前なんかよりずっと生きてる価値のある人間なんだ、お前の都合で終わらせてたまるかよ!」
なんでこいつがここまで俺のことで怒るのかよくわからないが、とにかく東雲は憤慨していた。右手を門から引き抜き、両手のラッシュで四門の動きを縫い止める。
「てめーから見たてめーの心情なんざどーでもいい。あたしは、あたしが思うことを正義に掲げて執行する。そいつは悪だ、退治すべき害悪だ」
尋常じゃない速度でフェイントを織り交ぜた斬撃を数発。東雲の左目を通過して斜めに切り傷が走り、肩に短刀が突き刺さる。
血で塞がれた左目を閉じたまま、肩の短刀を押さえ付けて東雲がふっと笑う。
「そうかい。オレにとってあいつは問答無用で大正義だ、殺させやしねえ…!」
傷を意に介さず攻撃を放とうとした東雲の肩に刺さった短刀を捻りさらに突き入れ、意識がそっちに傾きかけた隙を見て短刀から手を放し拳打を叩き込み東雲を吹き飛ばした。
「なら先にてめーが死ね」
「ゴリラ女め!」
言葉と一緒に血反吐が吐き出される。あの様子だと内側の骨が折れて内臓に刺さったか。素手で“憑依”状態の東雲の骨を折るとかやはり普通じゃない。
四門の言っていることは依然としてわからないままだが、それをいくら問い詰めたところであの女は説明しないだろう。時間の無駄だ。
今は今やれることをやるだけ。
そしてやれることは限られている。
倒す。ただそれだけ。
肩の短刀を引き抜いて地面に投げ捨てた東雲が高速で傷を治す様子を横目でちらと見てから、俺も“倍加”の力をさらに上げる。
全身体能力、四十八倍。
相手の能力は大体わかった…つもりだ。あとはそれを対処・対応しつつ倒すのみ。
そう感じていた俺は、傷を完治させた東雲が四門ではなく違う何かへ視線を向けているのに気付いて疑問を覚えた。
何を見てんだあいつ。

       

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