Neetel Inside ニートノベル
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力を持ってる彼の場合は
第二十三話 そして動き出す者達

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朝の登校中、貧血で倒れ、そのまま道端で気を失っていた。
それを探し回った俺が見つけ、無事を確認して学校へ連絡。
大体こんな感じの説明で通った。もちろん静音さんの不登校理由の話だ。
電話で連絡したあと、俺達は揃って学校へ向かった。
既に昼とっくに過ぎていたが、教師は怒ることなく静音の具合の様子を念入りに確認し、さらに保健室へ連れて行った。
俺も特にお咎めは無し。東雲との交戦があって俺も東雲も盛大に遅刻していたのだが、それもどうやら見逃してくれるらしい。
いきなり先生へ報告も無しに飛び出した点だけ注意され、それで終わり。
一番怒られたのは東雲だ。あいつだけ遅刻の理由も登校しなかった理由も無かったから。一応は俺からも静音さんの捜索を頼んだということで理由を作ってやったのだが、学生同士で勝手に話をつけて学校を出て行った時点でアウトらしい。まあそうだよね。
というわけで保健室でもなんの異常も見受けられなかった静音さんは、念のためにそのまま早退ということで帰宅することになった。っていうか俺らもそのまま帰った。
事情説明したり東雲が怒られたり状況を説明したり東雲が怒鳴られたりしていたらもう下校時間になっていた。東雲は不貞腐れていた。
「おかしくね!?オレだけなんでよ!」
「まあ…さすがに同情はする」
「ごめんね、由音君。私のせいで」
「いや別にセンパイのせいじゃないっすけど…くっそーあの教師絶対許さん!」
そんな話をしながら、俺達は帰路についていた。なんだか今日は移動してばっかりな気がするな。
「今度なんか奢るからよ、機嫌直せや」
「いいや!!」
今回の一件を借りと思って提案したその言葉にも、由音はぶんぶんと首を振って拒絶した。
「おごんなくていい!ただお前には言っておきたいことがある!」
「…なんだよ」
びしっと人差し指で俺を指して、由音は言う。
「今度またこんなことがあったら、そんときゃオレも混ぜろ!それでチャラだ!!」
「なんだそりゃ…」
意味不明過ぎて困る。
普通は嫌がるだろう、こんな命懸けの殺し合い紛いのことなんて。戦闘狂かこいつは。
「どうせちゃんと理由言ったってお前納得しねえだろ!だから言わねえ!いいかー、次なんかあったら絶対オレ呼べよ!絶対だからなっ」
「…わかった、わあったよ」
それで納得するんであれば。…できれば巻き込みたくはないんだが、まあこいつなら普通の人間よりもかなり死にづらいし、大丈夫か。
それで満足したらしい由音が、俺達から離れて違う道へ足を向ける。いつの間にか分かれ道に差し掛かっていたらしい。
「じゃ、また明日なー。静音センパイも!」
「おう」
「うん、また明日。由音君」
俺と由音のやり取りを何故かご機嫌な様子で見ていた静音さんも、俺と同じように片手を挙げて手を振る。
「あ!そうだ!」
「まだなんかあんのか」
大声で振り返った東雲がやや離れた距離をものともしない声量で、
「いい加減、オレのことも名前で呼べよな!いつまでも苗字とかよそよそしいからやめろよ!」
そりゃお前もだろうが、と言いたかったが、やめた。
代わりにこう答える。
「ああ、わかった。じゃあまた明日だ、由音」
「おうっ、守羽!!」
互いに名を呼び、大きく鼻息を吐いた東雲由音が今度こそ片手を振りながら去っていく。
「やれやれ…」
楽しそうにステップを踏みながら遠くなる背中を見送り、軽く肩を竦める。
「よかったね、守羽」
「なにがですか?」
どちらからともなく歩き始め、隣の静音さんが柔らかい笑顔で俺に言った。
「ううん、なんでも?」
冗談めかして、静音さんは俺の言葉に曖昧な返事をした。
そんなこんなで、無事に静音さんを家まで送った俺の一日は終わった。
とても長い一日だった。色々なことがあって、どっと疲れが押し寄せてくる。
今日はもう風呂入って晩飯を食ったらすぐ寝てしまおう。
そう考えながら、俺は一人になった帰路に若干の侘しさを覚えながら家に帰った。
……全てがひとまず終わったのだと、勝手な勘違いをしたまま。

       

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