Neetel Inside ニートノベル
表紙

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映画の内容は、ラブロマンス…というのだろうか。とある男と女が四苦八苦しながらも結ばれていく恋愛ものだ。
こういうのは男子受けはしなさそうだが、俺は別に嫌いじゃない。というか映画自体が結構ジャンル関係なく好きなのだ。男なら絶対に燃えるような熱血系やヒーローものはもちろん好きだし、感動する話も好き。切ない物語も後味が悪くなければ。
ようはどういう話かというよりも、単純にハッピーエンドが好きなのかもしれない。皆が幸せで幕を閉じるというのは、なんだかとても安心するから。
薄暗い中で隣に座る静音さんの様子を横目で見てみると、視線を正面に固定したまま真剣に映画を見ていた。友達から貰った前売り券だし、適当に流して見るのは失礼だと思っているのかもしれない。静音さんらしいっちゃらしい。俺も見習わなければ。
意識を集中してスクリーンを眺めながら、俺はこの機会をくれた相手に感謝の念を送る。
映画好きな静音さんの友人、確か井草先輩とかいったか。彼女の名は静音さんとの雑談の中でもよくよく聞くものだった。
井草先輩は様々なジャンルに手を伸ばしてわざわざ映画館に足を運ぶ人らしい。一人で見るのは寂しいから、そこによく静音さんを誘う。
俺と同じ全ジャンル対応型のようだが、井草先輩は単純に映画館で見るのが好きらしい。大きいスクリーンで、大音量で映像を見るのは迫力があって楽しいと。気持ちは俺もわかる。アクション映画とかはスクリーンで見ると迫力満点だから。
「……」
なんとなく、映像の中で甘々な空気が展開されていると、現実でも空気が柔らかくなっているように錯覚してしまう。
こっそりと、真剣に映画を見ている静音さんの手に視線を落とす。
……手くらいなら、握っても許されるのでは?
いやいや、駄目だ。静音さんはあんな真面目に観賞しているというのに、それを邪魔するような真似をしたら俺は来世まで大罪に悩まされることになるだろう。あまりにもおこがましい。
ここは俺も、今この時の記憶をしかと脳に刻むことに集中しよう。



「絶対に逃がさん!」
気合を声に出して、由音は街の一角で深呼吸する。周囲にいた人が不審なものを見る目でチラ見していったが、知ったことか。
意識を異能に傾ける。
同時に魂に呼びかけるように、存在そのものに定着している忌々しいモノの力を引き摺り出す。
悪霊の力、人外の性質、その感覚。
浸食され汚染されていく肉体と精神を、同じ速度で“再生”が駆け抜けていく。
人ならざる性質を宿し、由音は小さな人外の気配を追う。
自分を中心に広がる円の圏内に、ちょこまかと移動を続ける目的の気配を見つけた。
(いた!)
心の中で声を上げると同時、掴んだ気配も急速にその移動速度を上げた。
相手の人外も気配の探知が可能だとしたら、探知に対する逆探知も可能だ。
見つけたということは、見つかったということと同じ。
相手は由音に見つかったことを理解し、逃走を開始したのだ。
「逃がすかぁ!!」
ダン!!と右足を踏み出して低姿勢から跳び出す。アスファルトが砕けて弾丸のような速度で疾駆する姿に周辺の人々が驚愕の表情を見せる。
それらには一切構わず、由音は感じ取った気配を追跡する。
単純な速度は圧倒的にこちらが上。人外は人々の喧噪から離れるように街の中心部から遠ざかる。
好都合だ。
大きく跳躍し、いくつかのビルを跳び越えて最短コースで目標へ到達する。
「ーーー…ギッ!?」
「待てコラ!」
奇妙な鳴き声のようなもので驚きを表した人外の真上にドンピシャで着地した由音が地面を踏み砕きながら片手で目標を捕まえる。
ビルとビルの小さな通り道にいたその人外は片手で胴体を鷲掴みに出来るほどのサイズしかなかった。
頭でっかちの小人。
丸みのある顔は愛嬌があると言えなくもない。黒いとんがり帽子を被り、布きれのような衣服を身に纏い、小さな手足をジタバタと暴れさせている。
「暴れんなって!別に殺そうとか思ってるわけじゃねえんだから!ってか言葉通じんのお前!?何語?何語なら通じる!?まいねーみぃず……ダメだわからん!!」
英語での自己紹介すら満足に出来ない由音は半ば対話を諦めかけていたが、次に放った人外の鳴き声のようなもので眉根を寄せた。
「ギギ!クルッ!ココ、ニッ!クルッ!!」
「?…くるここ?」
「ココニッ!……クル!!」
クル。くる………来る?
何が?どこに?
「ココ、ニッ!!」
此処に。
何かが来る。此処に。今すぐ。
「…!」
頭上に現れた気配に、由音は小さな人外を掴んだまま前方へと跳ぶ。
ズガァンッ!
重量のある何かが落下する音が背後で聞こえ、ゴロゴロと転がりながら正面に視線を向ける。
「キタッキタ!!」
「…え、なにコイツ」
人間だとは思っていなかった。空高くから落下してくるくらいだからロクな人外ではないだろうとは予測していた。
だが眼前に立つソレは、由音の想像や予測とは違う意味で不気味な存在だった。
燃えている。
ガリガリに痩せ細った、全裸の人間…のように見えた。
骨と皮しかないような細い肢体の、その全てから炎を噴き出している。まるで全身の毛穴から火を吐いているのではないかと思えるような。
燃えているくせに、まるで骨も皮も炭化する様子がない。ただただ燃え続けている。
「シベン!シベンッ!!」
由音に掴まれたまま、小さな人外はその指で燃え盛る不気味な人外を指差して叫んだ。
「シベン?って何、名前とか?」
若干引きながらその燃える人外を眺めている、と。
「マジかよ、オイ!」
“憑依”の感覚が、背後から迫る気配を掴んだ。振り返るより早く両足に力を込め、直上に跳び上がる。
ブゥンと緩慢な動きで腕を振るった相手を空中で確認する。
また燃えていた。こちらは普通の体格で、同じように全裸。燃え方も少し違う、単純に体に火が燃え移ったかのようにひたすら肉体を燃やし続けている。
(なんだコイツら!気持ちわりいのが二体。………、ッ)
さらに由音は空中で身を捩り、迫り来るさらなる一撃を回避する。
(じゃねえ!三体いるじゃねえかくっそ!)
地面に着くより先に壁を蹴って対面のビル壁に靴底を押し付け、さらに壁を蹴って距離を取る。
「気持ち悪いのが三体。オレに用か!?それとも…」
由音は右手に握る人外を見下ろす。
「ギ、ギッ!ムジキッ!!」
由音の視線を受けて、小さな人外は今度はさっき由音を背後から襲った二体目の燃える人外を指差した。
さらに、
「ジキホウ!!」
空中で襲い掛かってきた俊敏な動きを見せる三体目を指す。
三体目だけは燃えておらず、肉付きも他二体と比べてわりと普通の人間のように見えた。体つきは大きく体色が奇妙にドス黒い。両手の爪は異常なまでに長く、鋭利に砥がれている。猫背で振り返るその常人離れした表情は何故か悲しげに涙を流していた。
ちなみに燃えている二体は延々と苦し気な呻き声を漏らしている。あれは自由に出している能力ではないのだろうか。
「シベンとムジキと、ええとジキホウ?なんだよわかりづらい名前だなもう!」
この小さな人外とは違い、連中は言葉が通じている風には見えない。ついでに友好的にもまるで見えない。
明らかに殺す気配だ。
(最初の予想とは違ったけど、結局こういう展開になっちゃうんだな!守羽に迷惑かからなくてよかったぜ!)
右手に持っていた人形のような小さな人外をぽいと地面に降ろして、空いた両手を構える。
「オイ、危ないからお前はどっか行ってろ!狙われてもオレ知らんからな!」
「ギィッ!」
承知したのか、跳び跳ねながら小さな人外は由音と不気味な三体から離れた。
「おっしゃぁ!来いこの野郎!!」
いつものハイテンションで、見た目の不気味さにも怖じることなく由音は相手の正体もわからぬままに人型の人外へと立ち向かう。

       

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