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「くそが、二度と来るんじゃねえぞ。ガキ」
「言われなくともそのつもりですよ」
数時間ぶりの外の空気。くどくどと続いていた警官による尋問であった
がボクはようやくそこから解放される。当然事の顛末を話すことはできない。
まあ、言ったところで信じてはもらえないだろうが、それでもこうしてボ
クが外に出てこられたのは店側が訴えを取り下げてくれたから、らしい。
警官に見送られ外へと放り出されたボク。そう、まだ問題は何も解決し
ていないのだ。当然時間経過により空腹の度合いは増している。
腹の虫に今朝の食卓が思い返される。ああ、こんなことならウシエルの
スープ、もう少し飲んでおくんだった。
時刻はすでに18時を回っている。日が落ち寒くなった気温。空腹もあい
まって身は小さく震える。見れば街灯にともる灯り。温かさが恋しい。
道行く人は、スマホ、足元、何かはわからないが皆が皆下を向き、まる
で人と目を合わせることを避けるかのように交わることなく歩き去ってい
く。
それでも彼らには帰る場所がある。行く当てがある。下を向いていたっ
て行先を見失うことはない。だが、ボクにはなにもない。あるのは空腹と
焦りだけ。
風が吹く。ボクの体をなめ、過ぎ去っていく。身震いひとつ、たまらず
ポケットへと手を入れるボク。
―ガサッ
何かが手にあたる感触。ボクはそれをポケットの中から引きだす。
赤い包み紙に添えられた手紙。書かれているのはたった一言。
『 アーエン君へ
上手にできてるか心配だけど、良かったら食べてね
ハミエル 』
学校でハミエルから受け取ったプレゼントであった。『食べてね』、そ
の文言に喉が鳴る。
包みを解くと中から出てきたのはクッキー。バニラビーンズがまぶされ
たいかにも女の子らしい、甘たるいクッキーである……甘い? いつの間に
か口に感じる甘味、咀嚼音。
ボクはクッキーを見るや口の中に詰め込んでいたのだ。クッキーのかけ
らが歯の間に挟まるがそんなことを気にする余裕はなくむさぼりつく。
頬を伝う涙……ボクは混乱していた。
幾度も起こる感情の起伏。摩擦で擦り切れた心。そして今触れた温かさ。
ありがとう……ごめん……、それは誰に向けた言葉だろうか。自然と内
から漏れ出してくる。
流れ出る涙は後悔ゆえか。その真意をボクは自分でも分からないでいた。