Neetel Inside 文芸新都
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金魚は吠えない
金魚は吠える

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 金魚鉢で足をバシャバシャしていたら金魚が「わー」って逃げていって頭とかをガラスにぶつけそうになって、でも金魚のなかにはIQがやばすぎる玉ねぎがいるから、そいつがヒレを出してガラスをぐいぐい押すとガラスは伸びていった。
 丸いんですけどそのうちカステラみたいに長方形になって、水しぶきが届かぬ位置に来たのだ。
 玉ねぎ、ラスク、メロンパンはわたしの横暴な政治「バタ足」から逃れて、ちょっと満足そうな顔をしていた。それでも水はぐらんぐらん揺れていたんだけど金魚は水と仲がいいので無問題でした。
 それでわたしはどうしてバタ足していたのかわからない。でもそれは最後までわからないままだった。
 たぶんこれはベッドの下に金魚鉢を置いたのがいけなくて、足をおろしたら「つめたっ」ってなってそのまま足をバシャバシャさせてしまうからじゃないかな。
 わたしが金魚鉢から足をどけて濡れ濡れの靴下のクマを見ると、もうなんか泣いちゃいますみたいな顔をしていた。
 だから、一生懸命乾かしてクマがにっこりになったらそれはもう夜だったんだけど、そのころ金魚たちは会議をしていた。でもしゃべれぬやつらだから退屈で、ボイスレコーダーでめちゃんこ撮るとか考えていたわたしは裏切られた気持ちです。
 宿題が作文だったのでそのことを書いたんだけど、わたしは先生がみなさんに発表しなさいといったときその作文の紙をもっていなかった。
 作文の紙はわたしの家の机の上でぽかーんとしていた。だから、雨がじゃぶじゃぶ屋根に飛び降りていってるので、音で怖かったかもしれない。お母さんが掃除にやってきて、わたしの作文の紙を少しだけ読んで「ばたー足」のところに×を書いた。
 わたしはでも教室で怖かったよ。みんなが猫みたいに動いたり暴れたりするから。そのうち発表者の人から出てくる言葉もくねくねになって先生のこと襲いはじめて、わたしはなにもない机から木目をさがして見ていた。
 視線をじぃーって焦がしてしまうみたいにやっていたから机から緑色の煙が出てきて、わたしは「火事だ火事だ」ばかり言っていた。
 佐西さんが青い絵の具を持ってきて教室を海にしなかったら、みんな緑色の髪の毛になっていたかもしれない。親戚のおじさんは緑色の髪の毛だった。かっこよかったけど悲しい眼をしている。鼻の穴のほうが優しい眼みたいなんだ。
 天井まで届いた煙はちゃっかり蛍光灯を緑にしていた。わたしの太もものところまで青色の絵の具は海を作っていたけど、ぬるかったからバタ足をしなくてすんで、上履きのわたしの名前を見ていた。
 濡れているからどんどん文字が変形している。そのうち蛇みたいになって上履きから出ていって、青い海のなかへ泳いでいった。マジックで書いたからマジックに戻りたいのかもしれない。真黒なスポンジは楽しいんでしょうね。
 金魚をつれていくことにしたのはそういう青い海が明日もあると思っていたからだった。でも絵の具はとっくにかわいていて床や廊下に貼りついていた。みんなベリベリ剥がすことに夢中で、わたしは金魚鉢を頭に乗せていることがバレずにすんだけど、犬だったらバレてたかもなって思った。
 やがて委員長の人が掃除機をもってきてぶるんぶるん色だけを吸いこんで、教室も廊下ももとの色に戻った。
 でも掃除機は蛍光灯まで届かないから、わたしの机の上の光はずーっと緑のままで、そんな感じだと9も6に見えたりするし3が回転しながら飛んでいってしまう。わたしは落ちた3を拾って玉ねぎにあげた。金魚鉢は玉ねぎのヒレによってお豆腐みたいに真四角になって閉じこもっていたから、ちょっとだけ穴を開けてくれるように頼んだ。3は逃げようとして丸いところを伸ばしたり縮めたりしていて、ちょっとかわいそうだけど、わたしは修羅ですんで穴にしゅぱって入れる。
 ラスクがむしゃくしゃ食べた。そういうときメロンパンはすました顔をしてそっぽを向いているけど、わたしが見ていないときにはヒレでお腹を叩いたりして他の2匹を笑わせているのを知っている。
 だからメロンパンが家出をしたときにはすごく驚いた。ラスクならわかるのに。わたしは水面に浮かんだちいさい紙を見てみたんだけどね、家出の理由が書いてあるのかなと思って、でもなーんなのかさっぱりわかんないからお巡りさんに見せた。
 そしたらなんか紙を書きました。でっかいでっかい紙でした。そこに写真を貼る。でもわたしはメロンパンの写真をとってなくて、しょうがないので玉ねぎが顔真似したメロンパンの写真を用いた。
 それをコピーしてくださった警察の人が、2000枚くらい貼れば帰ってきますよーといったので、わたしはいい電柱を選ぶなんてせずに平等に電柱にぺたぺたぺたぺたしたんだけど、100枚くらい貼ったらさすがに疲れたので、わたしは賢そうな電柱を選別してそいつにぽーんと残りの全部をやった。
 あとは電話が鳴って、メロンパンですか、はいメロンパンですよ、というやり取りをしたらオールオッケー。
 お味噌汁を飲んでいるときもお風呂に入っているときも、わたしはチリリリリリン用にお耳をあけておいた。
 だから鳴ったときはわたしはお休みをしていて夢のなかにいたんだけど、そのときオセロをしていたウサギが優しかったから「受話器が呼んでる」と言ってくれた。それでガバっと取った。
「もしもし、メロンパンですか?」
「まだ夢な気がします」
「いいえ。でも違うと思います」
 ウサギがわたしの頭を叩いた。それでお布団にわたしはいた。お布団の上にのっている電話がぴょんぴょん跳ねていた。
 でも出たら相手は電柱でして、あんなに大量の紙を置いていかれたので彼女にも振られてしまったから燃やしてしまいました、という事務的な連絡でした。
 それだからわたしは月がまだ光で町を攻撃している時間なのに、パジャマという極めてラフな格好でメロンパンを探すことにしたのだった。
 もちろん頭には玉ねぎとラスクものっている。玉ねぎは後ろを見て、ラスクは月を睨んで、わたしは前方確認のプロフェッショナル的な眼をもってして、メロンパンを探したのだった。
 すごくすごい深い夜は、海だと勘違いしてやってきた魚たちが足を生やして歩いている。そのままだと移動できないので、ふんばって足を生やすのだ。
 そういう魚たちは人間を見ても挨拶をしないどころか襲ってくるのだけど、わたしは金魚を従えていたので、奴隷はわたしかもしんないけど、みんな「ヤベヤベ」言っていた。
「そういう歩き方もあったんですね」と生意気な口を聞いてきたのは、すごく金魚に似た魚のKくんで、わたしは「うむ」と力強くうなずいた。
 なめられたらあかんのよ、とはお姉ちゃん語録である。でもなんか仲良くなってタメ口になった。
「Kくん、メロンパンという金魚を知らんかね」
「知らね」
「この写真を見てくれ」
「超知ってる」
「やりー」
 わたしはKくんの後ろをついていって、ドンキーホーテへいった。そしたらそこでメロンパンが働いていた。ネームにはチョコクッキーって書かれていた。
 メロンパンはわたしと眼を合わせようとしないでカーナビばかりすすめてきた。
「いらないよ!」
 わたしは怒ってカーナビを床に叩きつけた。次の信号を右折です。次の信号を右折です。でも信号なんてないんだよ。
 Kくんがメロンパンと話してくれた。わたしはそのあいだでかいジグソーパズルを眺めていた。
 Kくんがやってきてメロンパンはお金を稼いで言葉を喋りたいことを教えてくれた。手術にはすごいお金とか、あとセクシーさとかいるらしい。
 わたしにはセクシーさはないけど、2、30万くらいの金はあったので、店長にたのんでメロンパンをやめさせた。
 手術のときはドラえもん読んでた。メロンパンは喋れるようになって「くちびるが疲れるわ」なんて言っていたけど、最近しゃべることに飽きて「ワンワンワン」と吠えるようになってしまったのでした。おしまいおしまい。

       

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