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とらえたエルフを岸につけた船へと移動させる。
実はこの行程が一番厄介だ。潜むだけなら冒険者すら来ないような場所を見つければいい。狩るだけならもと簡単だ。
しかし、移動となると他のものに見つかる可能性や原生生物に襲われる可能性がある。
ただの冒険者に見つかるだけなら殺してしまえばいい。しかし、アルフヘイムの魔法師団や皇国の巡視隊などに見つかればことだ。
以前も大陸の自警団と戦闘になり苦労した。
だからだろう、今回ボルトリックはもう一人護衛を雇っている。
ガモは雇われたその男に目をやる。
壮年の黒髪の男だ。頬はこけ、無精ひげが目立つ。赤い目は暗い光を宿し、薄ら笑いを浮かべている。
何よりも目立つのは左の義足とひじから先のない左腕だ。
こんな男が果たして役に立つのかとボルトリックン聞いてみたくなったが、不要な詮索をする必要もない。
と、そこでその男が口を開いた。
「なんだ兄ちゃんよぉ、あまり信用ならねぇって目つきだな」
当然だ、と応える代わりにガモはふいと顔を彼から背けた。
その視線の先にいたボルトリックは気にするなとも言いたげに鼻を鳴らした。
「腕は確かな奴だ。気にするな」
「そうそう、もらった金の分はちゃんと働かせてもらうぜ」
手をひらひらさせて口元をゆがめる男をガモは今一度不信げに睨む。
ベルトランドというこの男がどの筋から主であるボルトリックとの契約に至ったかは知らないが、いずれにせよまともな素性でないことは確かだろう。
怪しい動きを見せるようならすぐにでも叩き伏せる。ボルトリックとてそれは計算のうちのはずだ。彼がそう決めたのならガモは反対を決してしない。
従者である以上、主を守るそれ以上の役目はない。主に意見する必要もない。ただ、主の道具であればいいのだ。
そんな二人を視界の隅に捉えつつ、ベルトランドは懐に忍ばせた新聞に今一度目をやった。
先日起きた亡者事件の功労者の写真。ゴミ捨て場に捨てられていたこの記事を目にした瞬間に身が震えた。
真ん中に映る子供は別にいい。問題はその隣に映るエルフの女だ。手に持ったこの杖は。
ベルトランドは口元をゆがめた。こんなところで目にするとは思わなかった、6年前の獲物だ。
今度こそ手に入れて見せる。きっと金になるはずだ。
「おう、もう移動するで」
ボルトリックが荷馬車の御者台に乗り込む。ベルトランドも気のない返事をして腰を上げた。