Neetel Inside 文芸新都
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「ほら起きーや啓介、着いたで」
新幹線が米原に着いて俺は光太郎に揺り起こされる。そうして目を開いた途端、激しい頭痛が寄せる波のように連続して俺を襲った。あれからずいぶん飲んだらしくて、潰れて凹んだ空き缶が足元に転がっている。どうみても飲み過ぎ。
「俺の分も空けやがって」
「頭ガンガンする」頭上の荷物を取ろうと立ち上がるも思うように足が動かせず、ふらついて壁にもたれかかってしまう。見兼ねたようにして光太郎が荷物を全て手に取り出口へさっさと歩き出した。「ゆっくり来いや、俺先出てるで」
スタスタ先に行くもんだから、慌てて背中を追いかけようとするけど千鳥足じゃ進めるものも進めない。急ぐと足がもつれて床に滑ってころんでしまう。周囲の乗客がじろじろと白い目を俺に向ける。いかにも迷惑そうな感じ。
光太郎は車両から降りて姿が見えなくなる。壁を手すりにへばり付きながら芋虫のようにして俺も車両を出ると、時刻夜の9時、駅のホームからは一面真っ白な銀世界が外の暗闇に目一杯に広がっていた。雨風除けの屋根を躱して大粒のわた雪が前髪に舞い落ちて、すぐに溶けて水となって染み込む。呼吸は冬の煙突の煙みたいに白い息になって空の向こうへ消えていく。誰かが嘆息するのがどこかから聞こえて、しばしの間俺は動けずにじっとその光景を見つめて、ただ一人立ち尽くしてしまう。そこは確かに米原で、俺のふるさとで、全ては八年前で時が止まっているかのようだ。
2度と来るまいとしていた場所の、地面を俺は踏んでいる。

       

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