Neetel Inside 文芸新都
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穂花からの着信を一方的に切ってベッドにケータイを投げるとまたもブブブと着信が来て振動で布団が揺れる。穂花の家から出て来て今に至るまでもう着信の数は数十件にも及んでいるけど、一度もまだ受けた試しはない。苛立ちのまま羽織っていた上着をベッドに脱ぎ捨てて椅子に腰掛ける。諦めたのだろうか、しばらくして着信は止まり、代わりに耳を刺すような鳥の鳴き声が無音の部屋に木霊する。SNSの通知音だ。見る気にはなれなかったけど、トイレで用を足し風呂で髪と体を洗って穂花のことをてっきり忘れ、何気無くケータイを手に取ったとき俺の目に通知の文面が飛び込んでくる。
『電話出て。今日の誤解解きたいし絶対啓介勘違いしてるから』
返信するべきか迷ったけどしなかったらしなかったで後々面倒なことになりそうではある。穂花は少し精神的に弱いやつであるしちょっと参るとなにをしでかすかわからなかった。とりあえず俺は文章を打ち込んでいく。
『誤解ってなんやねん俺は俺の見たままに対して怒ってるから誤解もクソもないやろ』送った即座に既読が付いて数秒で返信が来る。
『クソとかそういうのやめて。そういう汚い言葉使わないでケンカみたいになるじゃん』
俺はまた送る『俺はお前に対してムカついてるし怒ってるしケンカやろもう、つか話逸らすなや』
『私は別に啓介に怒ってないしケンカしたくないよ。だから誤解っていうかまず説明させてよ』
『何を』
『だから啓介がさっき私の家に来て見たこと』
『他の男彼氏に内緒で家連れて来てヤることの誤解も説明もそれ以上ないやろが』
既読がつくもしばらく返信がなくなる。穂花は今この画面の向こうでどんな顔でいるのだろう。きっと明るくはないのだろうが。それとも数十分前にいたあの間抜けヅラの男に励まされているのだろうか。どっちにしろ馬鹿げている。馬鹿げすぎている。2分程して返信がくる。
『私が全部悪いの、それは自分だってわかるし反省もしてるよ。でも私がそうしちゃった理由がわかる? 啓介は何も思ってなかったかもしれないけど私だって女の子だし寂しくなるときだってあるよ。それでも私が悪いよ、それはそうなんだけど』
『何その言い方、明らかに自分に全部否があるなんて思ってねえやろ』
『言ってないよ』
『いや言ってるから。読みかえしてみろよ、俺がいつ寂しくさせたよ、寂しかったら浮気すんのかよ』
『啓介話聞いて』
『バイバイ』
電源を切って、俺はもうそれ以上会話することをやめる。こうなることがわかっていたから俺は電話もしたくなかったんだ。俺はどんな理由があってもあいつを許す気にはなれないし、あいつはあいつで自分の過ちを少しでも正当化させようとする。こんな会話にゴールなんてあるわけがない。
きっと今頃穂花は俺に連絡を入れようとしているのだろうが俺のケータイの画面は真っ暗に明かり一つなく沈黙している。それまでのあいつとの記憶を持ったそれをそのまま捨てることも考えたけど、それは今後の生活に支障が出るからやめておく。濡れた髪のまま、俺は枕に顔をうずめる。時間はもう正午を過ぎていたし何よりすごく疲れていたから。たぶん俺はあいつと2度と顔を合わせることはないだろうし復縁なんてもっとない。寂しさが浮気で埋められるのなら、浮気相手のアホ男と一緒に勝手に色々やってくれ。

       

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