Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
116 因果応報

見開き   最大化      


 ロスマルトとエルナティ、2柱の獣神将とディオゴの1羽を乗せたエントヴァイエン軍団もとい
丙武軍団率いる甲皇国第69車両戦団はノヴァマインシュタインへ向けて前進していた。
ノヴァマインシュタインはミシュガルドにおいて甲皇国が拠点を置く駐屯都市である。

エントヴァイエンが搭乗し、丙武が所有権を持つ装甲車両「ダヴクルーザァー」には
搭載されている研究設備はあくまでも捕獲した生体サンプルを保管しておくに過ぎない
簡易的な設備しか無い。

生物学の権威であり、丙家お抱えのDr.ゲコにとっては不満しかない。
例えるならソープランドで本番以前にフェラどころか、抜いてすらもらえないぐらいの
不満度である。

「ぬぁんという事だ!!これほどの美しい生体サンプル……いや、
神を前にして ただ保管するだけで精一杯などと……!!」

アルフヘイムとの戦争時代……彼はアルフヘイムから送られてくる
獣人やエルフを使った研究に勤しんでいた……というより、研究好きの
マッドサイエンティストの彼の性分とたまたま彼の母国が求める需要が同じだったためか…

丙家の研究補助金を湯水の如く使い、
数多くの非人道的な生体実験を繰り返し、死亡したり突然変異して廃人となっていく
獣人やエルフの姿を見て彼だけが大喜びする以外に
彼の研究は何の成果も還元も成されなかった。唯一得られたのは
獣人やエルフはどれほどの刺激、衝撃、熱、音、苦痛などで死に至るのか
ただそれだけだった。

亜人(獣人・エルフ)掃討を第一主義に掲げていた丙家が
甲皇国の覇権を握っていた戦時中では、Dr.ゲコのほぼ道楽に等しい研究は
歓迎され、支持もされたものだが、戦後 乙家が覇権を握り始めてからは
「事業仕分け」によって無駄という無駄が垢スリの垢のようにこそぎ落とされていった。
なにしろ、甲皇国はアルフヘイムに対して戦後賠償金 3京4300vipを
支払うようにニーテリア国際裁判所(本部:ノヴァハローワーク…ミシュガルドのSHWの駐屯都市)
にて判決が下り、国家財政は火の車となっていた。無論、甲皇国は払えるはずもなかった。
戦争による軍需によって富を得ていた甲皇国は、停戦によって手段を奪われてしまったのである。
これにより、生産性を失った甲皇国ではハイパーインフレが勃発し、
その発端を招いた丙家は戦犯として国民から激しい紛糾を受けた。
そんな中で、丙家としてこれ以上 戦時中の非人道的な実験が暴露されるわけにはいかない。
こんな実験が暴露された日には最早 丙家は取り潰しになる。
関係者は粛清という名のもとに次々と処分・あるいは消息不明となっていった。
Dr.ゲコもその粛清に巻き込まれた一人である。暗殺者の手を潜り抜け、
ようやくたどり着いたミシュガルドで 人知れず昆虫採集や動物日記をつけながら
潮風に肌をただれさせながら、干からびたダンゴムシみたいに暮らしていた
彼にとって今回の仕事は願ってもいない話だった。

なんでも、丙家のパトロンにエントヴァイエン皇太子殿下が付いてくれたお陰で
丙家はミシュガルドという大地で再興を図るチャンスを得られた。
開拓事業という名の下に、ミシュガルドに生息する未知の生物の研究を
行える科学者が求められており、生物研究において数多くの臨床を重ねてきた
彼、すなわちDr.ゲコの力が必要になるとのことであった。
彼にとってはあの数多くの臨床に明け暮れたあの日々を取り戻す
またとない黄金機会(ゴールデン・オポチュニティー)だった。

再び丙家の研究者として返り咲くことができた彼は
ミシュガルドの暗黒海岸で捕らえられた生物の研究に明け暮れていた。

古代ミシュガルド人が欠損した目と鼻と歯を形成するために飼育していた「ゴールデンスライム」、
古代人ミシュガルド人の子宮を合成させ、ミシュガルド人の胚を後世に遺すために生み出された人造生物「エッグキーパー」、
ミシュガルド人が奴隷として使役していたスパルフックス人の女性の顔を舌のパーツに使った悪趣味な合成ガエル 「フェラァアール・フロッグ」、
アルフヘイムのエンジェルエルフ族がかつて自らの種族の下層民を兵隊として使役するためにロボトミー手術を
施した「ワーカァ」の野生化した群れ、生物をゾンビ化させる「ボロールカビ」、
黒い霧に寄生され、霧の粒子入りの母乳を撒き散らす緑の人面馬「ツォンタヲール」など……

彼の研究でその生態や歴史が明らかになった生物は数知れない。
そんな彼にとってこのミシュガルドの生物の全てを滑る獣神将を1柱どころか、
2柱もゲット出来たのはもう有頂天の極みだった。

だからこそ彼にとって、そんな貴重なサンプルを
ただチンコをしゃぶって見ているだけというのは苦痛以外の何者でもなかった。

ノヴァマインシュタインには確かに研究設備も山ほどある。
だが、そこにいけば山ほどの書類にサインを書き、監視付きの研究を強いられる。
なぜならノヴァマインシュタインには乙家の監視もあり、非人道的な集団が取られれば
即刻研究は廃止されるという息苦しいこと極まりない結果が待っているのだ。

「せめて血液だけでも採取してやる……せめてそうだなぁ……このカワイィ
女の子からいこうっかなぁぁああああああ」

Dr.ゲコはエルナティの眠るカプセルと
生命維持装置らしき機会を繋ぐチューブの間に連結器を挿入し、
そこから注射器を伝ってそれぞれの血液を採取した。

「……血液さえあれば、後はこちらでどうとでもなる。
コピーにはなるが、この血液を元にクローンでも作って
そこから……」

Dr.ゲコは注射器を袋にグルグル巻きにし、ポケットにねじり込むようにして白衣の
ポケットに隠した。
Dr.ゲコが取らぬ狸の皮算用を脳内でしている間に、
エルナティの血液の一つが注射器の先端から一滴と溢れ出した。
溢れ出した一滴の血液はやがて注射器を離れ、やがてDr.ゲコの白衣のポケットを
赤く染め始めた。やがて、白衣を染めだした血液の塊は一滴のしずくとなって
ゲコの靴へと落ち、靴を伝って爪から体へと侵入していった。

「ぅぐ……!」

突如として、Dr.ゲコは足に焼け付くような痺れるような激しい違和感を覚え、
スボンを下ろし足を出す。足は真っ赤に腫れあがり、その腫れ上がった塊は足を伝い、
心臓の方へと昇っていった。

「ぅぎぎぎ……ぎゃぁぁああああああっっ!!」

あまりの激痛にDr.ゲコは激しくもんどり打ちながら倒れこみ、
激しく痙攣をして暴れまわった。


Dr.ゲコが断末魔の悲鳴をあげてからまもなく、彼の心臓は突如内側から破裂した。
血を噴き出すゲコが自分の胸を見つめながら最期に見たものは
血まみれになった真っ黒な鳥のような姿をした黒い人影であった。

「ぶぁ……か……な……」
ひくひくと痙攣しながらも、ゲコは薄れゆく意識の中思う。
(ああ……死にたくねぇなぁ……まだ俺にはやりたいことが……まだま)

こうして、Dr.ゲコはその短い生涯を閉じた。
どん底から這い上がり、一度は理想の暮らしに戻ったかに思えたゲコの
カムバックは最終的にどん底から奈落の底へと落ちていったのだった。

「ケるぅァァァアァァ~~~~ッッ!!」

Dr.ゲコの胸をまるで蛹の殻のように脱ぎ捨て、
真っ黒な鳥の姿をした黒い人影は血のような色をした赤い唾液の糸をたらし、
ゲコの亡き骸の周辺に飛散したゲコの血液をスープのようにすすりながら、
次の獲物を求めて歩いていくのだった。

       

表紙
Tweet

Neetsha