Neetel Inside 文芸新都
表紙

黒兎物語
65 裏切りの報復

見開き   最大化      

メゼツ兵団との激しい戦闘により消耗の激しい黒兎人族の兵士たちが休息をとる中、白兎人族の兵士達は彼等を守るように陣地を確保していた。ディオゴとヌメロがノースハウザーと共に裏切り者の炙り出しのための会議を終え、ネロと思しき白兎人兵 「コンラッド・ブルーアー兵長」の捜索を開始してから発見までは時間を要することはなかった。
「あァ、ブルーアー兵長なら3分前に交代したばかりですね。喫煙所にでも居るんじゃあないですか?」
「ありがとう」
コンラッド・ブルーアー兵長の所属している第2分隊長に礼を言うと、ノースハウザーはディオゴとヌメロのもとに戻る。
「ネス兵長は仮眠所に居るらしい・・・すまないが、ここからは私に任せてくれないか? もし彼が君達の知るネロだとしたら 君を見た途端に激しく抵抗しかねない。」
「・・・初めからそのつもりです 曹長 」
ディオゴはノースハウザーを気遣うように肩を叩いた。
「コンラッドはいい部下だと信じていたのだが・・・嘘であってくれと祈るしかない。」
身内に裏切り者が出て内心相当ショックだったのだろう、ノースハウザーの兎耳は紫色に染まり、血色を失っていた。
「・・・すまないね」
「らしくありませんよ 曹長」
ノースハウザーは元々ディオゴが白兎軍に所属していた時の元上官だった。ディオゴに軍人として基礎を教え込んだのも彼だ。モニークをレイプしたアーネストに復讐するために基地へと乗り込んだ時、背を押してくれたのも彼だ。そんな師と言える存在のノースハウザーの狼狽と動揺を隠せぬ姿にディオゴ自身も悲しくなり思わず、叱咤するように言ってしまった。
「・・・まったくだ、歳は取りたくないものだ。」
弟子とも言える存在のディオゴにハッパをかけられ、ノースハウザーも自身の老いを悟るかのように悲しく呟いた。
ノースハウザーは元々ディオゴが白兎軍に所属していた時の元上官だった。ディオゴに軍人として基礎を教え込んだのも彼だ。モニークをレイプしたアーネストに復讐するために基地へと乗り込んだ時、背を押してくれたのも彼だ。そんな師と言える存在のノースハウザーの狼狽と動揺を隠せぬ姿にディオゴ自身も悲しくなり思わず、叱咤するように言ってしまった。
「ここで待っていてくれ、話をつけてくる。」
ノースハウザーは単身喫煙所へと入っていった。
「・・・大丈夫ですか? 彼に任せても」
ヌメロが心配そうにディオゴに尋ねる。味方だとは言え、ノースハウザーは白兎人族だ。もしかしたら、匿って逃がすんではないかと心配になる。
「大丈夫だ、曹長を信じよう」

そう言い終えるのを待たず、喫煙所
からノースハウザーの声が聞こえてくる。
「ブルーアー兵長 話がある」
ノースハウザーが言い切ろうとしたその時だった。
「ぐあッ」
男のうめき声と同時に喫煙所から数発の銃声が鳴り響く。
「!!」
喫煙所にディオゴとヌメロが雪崩れ込んだ時にはその場にうずくまるノースハウザーと2~3名の部下の死体があった。そして同時にその光景を作り出した元凶であるコンラッド・ブルーアーの姿があった。
「・・・ネロ!!」
コンラッド・ブルーアー・・・いや、ネロは幼なじみのヌメロを見ると大層驚いた様子で目を見開き、その額目掛けて発砲した。だが、すんでのところでディオゴに背中を引っ張られ、部屋の外へとひきずり出されたお陰で辛うじて難を逃れた。
「クソッ!」
ディオゴが48口径の拳銃を取り出し応戦するが、ネロはそれを寸前で見切りながら応戦し、その場から逃亡した。
「黒兎人族が裏切ったぞー!!」
ネロは周囲の白兎人族を呼び寄せようと大声をあげると、林の方向へと逃げていく。
「待て!!ネロ!」
ヌメロは逃げるネロを追ってかけ出していく。
「曹長!!曹長!」
ディエゴは倒れるノースハウザーを抱き起こし、容態を確認した。
「・・・私のことはいい 早くコンラッドを」
ノースハウザーの右胸からは血がドクドクと染み出している。急所ではないが、失血死の危険がある。
誤報を聞きつけ、怒り心頭の白兎人族が襲い掛かってくる。
「こっちじゃない!裏切り者はあいつだ!」
ディオゴは怒り心頭の彼等を押しのけようとするが、味方である以上
手荒な真似が出来ず、行く手を妨ぎられてしまう。
「バカもの!!どけ!」
話の分かる空気でもなく、ディオゴはつかみかかる兵士達を振り解くと、そのまま駆け出して行った。
最悪、ノースハウザーは放っておけば兵士達が手当てしてくれるだろう。だが、ここでネロを逃がせば敵に情報を漏洩される危険がある。
ディオゴは先にネロを追うべく駆け出して行ったヌメロを追って林へと飛び込んだ。

「ネロッ! ネロー!」
ヌメロのネロを呼ぶ声が悲しく林に響いた。だが、それでもネロの足は止まらなかった。

「止まれ!!ブルーアー!」
いつの間にか先回りしていたディオゴがネロに銃を向け、制止させる。
ネロも負けじとディオゴを撃とうと銃を向けたが・・・
「銃を下ろせ!!ネロ! 」

間一髪でヌメロが到り着き、ネロに向かって銃を向ける。
「終わりだ・・・ブルーアー おまえの正体はバレた。」
どうか人違いであって欲しいとヌメロはネロではなく、ブルーアーの名を呼んだ。ブルーアーは不敵に笑いながら、ディオゴに向けていた銃を上方へ向けると振り返りヌメロを眺めた。
「・・・なら俺は誰だ?」
そう言いながら ヌメロに微笑みかけるネロの口元には本来の白兎人なら無いはずの発達した犬歯が覗かせていた。彼が黒兎人族であることを証明していた。白兎人になりすますためにあまり笑わずにいたのだろう。久々に動かす表情筋が不自然に震えている。
「・・・ネロ」
ヌメロは突きつけられた現実に思わず、目を背けたくなり思わず目を閉じた。
「久しぶりだな、ヌメロ。」
「ネロ・・・」
ヌメロは幼なじみが裏切り者だと信じたくはなかった。無言であったが、その顔には嘆きの悲しみが刻まれていた。
「幻滅したって顔だな・・・まあいい。ヌメロ、おまえが俺に何を期待しようと勝手だが、おまえの理想像を俺に押し付けるのはやめろ。 俺はおまえが思っているような人物ではない。」
幼なじみに裏切られ、ショックを受けるヌメロの顔を嘲笑いながら、ネロは言う。
「君が裏切ったと信じたくなかった」
「裏切る? 最初に裏切ったのはそっちだ。俺はその借りを返しただけだ。」
ネロはヌメロが裏切りという言葉の意味を取り違えていることを責めるかのように言い返した。ネロの言葉には激しい失望と そこから来る怒りと悲痛な叫びが滲み出していた。
「生まれた時から一緒だった
親も兄弟にも・・・!
苦楽を共にした友人にも・・・!
俺は裏切られたんだ・・・体の色が変わっただけで・・・! そんな理由で俺を裏切ったあいつらをどうして守らなきゃならないんだ?」
ネロは湧き上がる怒りをヌメロに向け、ただひたすらぶつけていた。
怒りに満ち溢れたその表情だったが、その目は辛く悲しく泳いでいた。涙こそ流れはしなかったが、その言葉一つ一つが涙のように流れているように感じられた。

「ヌメロ・・・すまない。君がどれほど苦しんでいたか分かっていた筈なのに・・・俺はそんな君を救ってやることすら出来なかった・・・どうか許してくれ。」
ヌメロはネロの痛みを噛み締め、ただ謝ることしかできなかった。
救いの手は何度でも差し伸べたつもりだった、だがそれが本当にネロのためになった訳ではなかった。
ヌメロはただそれが悲しくて悔しかった。
「・・・別におまえを恨んじゃあいないさ。少なくともおまえは俺を気にかけてくれたからな。ただ、おまえは俺の正体を知っている・・・生かしておくにはいかない。」
その瞬間、ネロは持っていた銃をヌメロに投げつけると両手の袖の下に仕込んでいたブレードを出し、ヌメロに襲い掛かる。
いつもなら投げつけられた銃など瞬時に見切ってかわせる筈のヌメロだった。 だが 幼なじみの言葉を受け止めすぎたヌメロにはかわすには体も心も重すぎた。 ただヌメロはネロのブレードを受け止め、防御する以外になかった。ヌメロの腕の体毛に潜んでいた鈎爪が外へと飛び出し、ネロのブレードを火花を散らしながら受け止める。
「ヌメロ!」
ディオゴは背後からネロに襲いかかろうと試みた。だが、ネロはヌメロの鈎爪を押し倒そうとしながら、後ろ蹴りをディオゴの腹に叩き込んだ
「ごふあッ」
ネロの蹴りがディオゴの腹に食い込む。兎面のネロの蹴りは強烈だ。いつかメゼツの攻撃を喰らったヌメロのようにぶっ飛ばされながら木々をなぎ倒していった。
「げはッ」
兎面の兎人族による強烈な蹴りを喰らいディオゴは痛みに身をよじり悶え苦しみのたうち回っていた。
人間面のディオゴの腹筋は見た目は人間そのものだが内部は兎人族の凄まじい筋力に耐えられる構造になっている。だが、それでも兎面ともなればやはりダメージは大きい。殴られる瞬間に腹筋を硬直させたが、それでも深刻なダメージを受けた。

       

表紙
Tweet

Neetsha