Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 煙玉の煙幕が晴れていく。イーノの小さな肩が震えている。
「ほう、仲間のため捨てがまりとは、いい根性だ。名前を聞いておこう」
 馬頭は一騎打ちできることに喜んでいる。
「召喚士イーノ・チチルノ・ハカナック」
「俺様は獣神将がひとり、ロスマルト。嬉しいぞ人間ッ! さあ!! 命を削りあおうぞ!! 」
 先ほどのクルトガの不意打ちがフェイントになって、ロスマルトはうかつに動こうとしない。敵が警戒しているうちにイーノは呪文の詠唱終わらせ、杖の先に魔力と強い意志を込めた。
 今ならばできる気がする。長いスランプはきっと今のためにあったに違いない。
「我が訴えに応じよ。零落した古き破壊神よ来たれ」
 普通はここでスランプから立ち直り、強力な召喚魔法で大逆点するところだ。しかし、現実はそんなに甘くはない。召喚されたのはマン・ボウだった。
「まだ私じにたくな゛い゛ぃぃ~」
 イーノは恐怖を払うようにマン・ボウを召喚し続けた。こうなったら人海戦術だ。魔力の続く限りイーノはマン・ボウを増やし続けた。
「魔法のレベルを下げて、数で勝負するのか。つまらん。興がさめた。死ね」
 ロスマルトが戦斧を振るうと、その風圧だけでマン・ボウはバタバタと倒れた。足止めにもならず、マン・ボウをすり身にしながらロスマルトが迫ってくる。
 イーノは残る全魔力と生命力を杖の先に込めた。おそらく、これが最期の召喚となるだろう。
「我が訴えに応じよ。忘れ去られた古き創造神よ来たれ」
 太陽が覆い隠され、二人の上に大きな影を落とす。
「やっぱり、私役立たずだー。でっかいマン・ボウ……」
 巨大なマン・ボウが空から落ちてきて、二人を押しつぶした。


 同時刻、フロストが首から下げていたタリスマンが砕け散った。アルペジオたちは不吉なものを感じ、先を急いだ。


「まさか、遅すぎたのか」
 テレポートで先にたどり着いたメゼツは、巨大なマン・ボウの下敷きになったイーノを助け起こした。体にはぬくもりが残っていたが、心音は完全に停止している。
 もしメゼツが少しも迷わなかったら、助けることができたかもしれない。メゼツはちっぽけな自分を恥じた。何が勇者だ。メゼツは皇国勇者勲章を胸から外した。
 仲間を助けるために、非力ながら全力を尽くしたこの幼いエルフこそ真の勇者だ。メゼツは小さな勇者の胸に勲章を付けた。


「やってくれたな、エルフの小娘」
 ロスマルトが怒り狂いながら巨大マン・ボウを突き破った。
「何、仕留め切れてなかったのか。イーノの願い、俺が引き継ぐ」
 メゼツはロスマルトの目前に短くテレポート、体当たりで奇襲をかける。ロルマルトはすぐに反応し、間合いの長い戦斧を離し、カウンターで拳を突き上げた。
 メゼツの体がゴムまりのように跳ねて、木にぶつかって止まった。ウンチダスはそこら中に転がっているマン・ボウとさして変わらないほど弱い。本来なら今の一撃でも致命傷のはずだったが、ロスマルトが消耗していたため免れた。
「お手柄だロスマルト。このメスガキ、全身が器じゃあないか。予備パーツとして使えそうだ」
 聞いたことのない声。仲間が助けに駆けつけたわけではなさそうだ。とすれば、敵。最悪だ。しかも音もなく、いつの間にかイーノの亡骸を抱きかかえている。相当の実力者に違いない。
「ディオゴ、何が手柄なもんか。俺はまだ自分の宝玉を取り返してねえ」
 ディオゴと呼ばれた青年は茶髪に浅黒い肌の美男子に見えるが、人間の耳とは別に兎の耳が左右2本づつ生えているところを見ると、黒兎人族と呼ばれる兎人系とコウモリ系の混血種の亜人のようだ。右の兎耳の先だけちぎれている。
「それは貴様の問題だ。獣神帝に正直に話して搾られるんだな」
 ロスマルトは獣神帝がディオゴのような得体のしれない男に、宝玉を与え居城への出入りを許していることに不満だった。
「いいことを思いついた」
「気に入らない俺を殺し、宝玉を奪う。顔に出すぎだ。勘違いするんじゃあない。俺たちコルレオーネファミリーはお前らとだけ同盟を組んでいるわけじゃねえんだぜ。返り討ちにしてやってもいいが、負けた理由を連戦のせいにされるのは御免だ」
「ほざきやがれ!! 」
 ディオゴは犬でも呼ぶように手招きした。
「今なら俺の宝玉で共に帰還できるが、どうする」
 ようやくたどり着いたアルペジオらがロスマルトを取り囲む。
「次から次へとわいてきやがって。ちっ、今日のところは従ってやる。だが傷が癒えたら再戦だ」
「ケラエネの宝玉よ。俺たちをアルドバラン城に誘え」
 ディオゴが水色の宝玉をかざし叫ぶと、水色の光が2人を包み込み、ディオゴが抱えるイーノごと天に向かって飛んで行った。

       

表紙
Tweet

Neetsha