Neetel Inside ニートノベル
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 若手将校の女性が沢の流れる丘陵を歩いている。甲皇国軍人であることを示す黒い軍服、可憐な顔に似つかわしくない左目のやけど傷。軍人の家系に生まれたスズカバーン・ブリッツは軍隊以外のことに疎い。忙しすぎるのも困りものだが、いざ暇を出されてもすることがないのだ。
(ここは見晴らしがいいから着弾の観測所を置けばいいのに。アレッポは何やってんのよ。位置的にも敵の補給路を絶てるし……あー、やだやだ)
 散歩のつもりが、フィールドワークになってしまう。これも職業病と言うのだろうか。スズカは自問自答していた。
(私ははずされた。いや、私は作戦立てるのが仕事だから。でも私は作戦計画にもほぼ参加させてもらえなかった。しかたないわよ、カデンツァ殿下のクーデター未遂事件に連座してしまったのだから) 
 砲撃音に驚いて、鳥たちが西に飛び立つ。
(始まった。音が近い。知らず知らず、作戦区域に入っていたんだわ。未練ね)
 スズカは井戸側に腰掛ける。
(枯れ井戸?! そもそも近くに沢があるのに井戸は不自然。まさか……)
 釣瓶を外し、横木から垂れる縄をカラビナの代わりにベルトのバックルに通す。縄を伝い、ぴょんぴょんと井戸の内壁を蹴りながら降りていくと、急に足場がなくなり、スズカはしりもちをついた。
「きゃっ! 」
(横穴?! 方角はアーミーキャンプに続いている)
 早朝の冷たい風がスズカの髪を揺らす。横穴は外に抜けているのかもしれない。スズカは背嚢はいのうから電子妖精ピクシーを取り出し起動させた。
「こちらバーンブリッツ。アーミーキャンプの脱出経路らしき枯れ井戸を我発見せり。調査を続行する。増援送れ」
 メッセージを暗号化し、スズカは電子妖精ピクシーを放った。

       

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