Neetel Inside ニートノベル
表紙

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 狭い空間に4人が折り重なるように倒れている。土壁には「正一」の文字。ダイイングメッセージではない。「正」の文字は甲皇国で使われる文字で甲骨文字という。「正」はものを数えるときに使う字で「正一」は6の意味である。
 眼鏡のエルフがただひとり横穴を掘っている。大きな石に突き当たり、その下を掘っていた。外から遠ざかるように下に向かって掘り進む。もはや本人も何のために掘っているのか分からない。
 泥だらけの手を液体が濡らす。
「湧水? 地下水? 暖かい! 温泉!!」
 慌てて埋め戻そうとするラビットの手をスズカが起き上がって止める。
「埋めるなんてとんでもない。この枯れ井戸を温泉で満たせば、浮力で出られるじゃない」
 2人は残された力を惜しみなく使って、掘り続けた。この6日間で、確執なんざ吹き飛んでいた。人間至上主義だとか、エルフの誇りだとか、そういうものはどうでもいい。2人の願いはただ外に出たい、それだけだった。
 ダートも目を覚まし、ルパン脱ぎして温泉に飛び込んだ。
「はあ、極楽、極楽。さあ、ラビットちゃんもスズカちゃんも脱いで脱いで。服が濡れるじゃろ」
 ラビットとスズカは息ぴったりにダブルパンチ。ダートは再び眠りにつく。
 メゼツとサンリも加わる頃には、潜らなければ掘れないほどに温泉がたまりはじめた。もう掘らなくてもじきに井戸からあふれ出るだろう。後戻りできなくなってから、5人は井桁に鉄格子がはめ込まれていることに気づく。5人がかりで押したり引いたりするが、鉄格子を外す体力なんて誰も残ってはいなかった。
 ついに温泉が井戸からあふれ出す。5人はコイのように鉄格子の間から口を突き出す。必死に水面をパクパクする。スズカの耳に死別した愛竜リャーの鳴き声が届く。
「リャーリャー」
「リャー?」
 プレーリードラゴンが飼い主を助けようと鉄格子をガリガリとかむ。
 あきらめていた。死んでしまったと思っていた。生きていた。こんなところで死ねない。
 スズカは鉄格子を押す。リャーは鉄格子を引っ張る。主従を隔てる鉄格子が外れた。ひとりと1匹が再会を果たす。リャーはスズカの頬を愛おしそうになめた。
「プレーリードラゴンやーい」
 乗り物に置いてかれたガザミが、プレーリードラゴンに追いつく。キルクとフェア、コラウド、黒騎士、ヒザーニヤ4兄弟と続いた。
「アルフヘイム軍!! クラウス・サンティ!?」
 溺死寸前で井戸からせっかく脱出したのに、甲皇国の3人は敵軍に見つかってしまった。
「しまった、変装させたままだ。コラウド!」
「うんぼくわかった」
 コラウドは変装を解き、もとの縮れ毛のおじさんに戻った。
「おやおや、生きていたのか」
 黒騎士はダートとにらみ合う。
 メゼツは何が起こっているのかわからず、耳を傾けた。聞いたことのある声がいくつか交じっている。
「おい、ジョワン・ヒザーニヤ。お前なんで敵のほうにいる」
「驚いたな。4兄弟顔が同じなのに、よく俺がジョワンと見抜けたね」
「え、お前と同じ顔の奴がここにいるのか?」
 メゼツは目が見えなくてよかったと思った。ジョワンと同じ顔が並んでいる様子はちょっとしたホラーだ。
「ウンチダス、あんた目が……」
「ガザミ、お前もだ。なんで敵に回ってやがる」
「はあ? 傭兵ってのはな、金払いがいいほうにつくもんだ」
「それなら、こっちは全員分2倍の金額払ってやる」
 ヒザーニヤ4兄弟が顔を見合わせ、家族会議を始める。ジョワンが代表して結論を述べた。
「よし、乗った」
「契約違反だ。この裏切り者をどうする」
 黒騎士がキルクをじっと見ている。
 キルクとしてはヒザーニヤに弓を向けるしかなかった。

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