Neetel Inside ニートノベル
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 黒騎士の騎兵部隊が休憩中の竜戦車部隊に襲いかかった。奇襲のはずが未来予知によって読み切っていたヤーヒムはすぐにこれに対応する。
「馬鹿な。反攻に転じることが読まれていたというのか。竜人部隊は……竜人部隊は何をしている!」
 黒騎士がレドフィンを怒鳴りつける。
「貴様の指図は受けん」
「くそがー! これでは私の完璧な作戦が」
 黒騎士の目の前にゴリラの群れと機械兵の集団が殺到し乱戦となる。
「ウホー!」
「ウホウホ!!」
「ウホッホ!!!」
「あー、もーめちゃくちゃだよぉ」
 そのとき一本の矢がゴリラの眉間を射抜いた。さらに矢継ぎ早にキルクはゴリラを射止めていく。
(ここで黒騎士を助けて良かったのか? しかし捨てておくわけにもゆくまい)
 ゴリラのゲリラ部隊が壊滅するのをつぶさに見ていた機械兵は学習して木々に隠れながら接近する。
 キルクは構わずに放射状に連続して矢を放った。
「ヒザーニャ!」
 キルクの掛け声に従い、ヒザーニャ4兄弟がそれぞれ矢の先に向かって駆けていく。矢はヒザーニャたちの膝めがけて自動追尾してくる。ヒザーニャとそれを追う矢が木々を縫って機械兵近づく。矢はヒザーニャの膝もろともに機械兵を貫いた。
 黒騎士の騎兵隊は持ち直したかに見えたが、このタイミングでヤーヒムのもとに援軍がはせ参じた。
「ミルはただ魔法を極めたいだけです。この力を争いに使う気はありません」
 ミルミルは自分の背丈よりも大きな暴火竜剣レッドファングを一振りすると火災旋風が巻き起こり黒騎士の騎兵隊を壊乱させた。
「み、ミネウチだから」
 戦いを傍観していたレドフィンは暴火竜剣レッドファングの素材がかつてユリウスに切り落とされたみずからの尻尾であることを見抜いた。
「ミルとやら。我が尻尾をおもちゃにしおって、許せぬ」
「うそっ、本物。でもほら尻尾ならまた生えてくるかもしれないし、ドンマイ!」
「貴様ー! 俺を下等なとかげと蔑むか!! 生かして返さぬ!!! 竜人部隊出陣!!!!」
 レドフィンの口から超高温の炎が照射される。メゼツに向けて放ったものとは比べ物にならない本気の熱量だ。
 ミルミルは暴火竜剣レッドファングに自分の最大出力の魔力を注ぎ込み、迫る炎に向けて振り上げた。上に向かって流れる炎の障壁が出来上がり、レドフィンの攻撃を防ぐ。
 しんどくなってきたレドフィンは傍らの半竜型の竜人サンバジ・エンゼホラに不平をもらす。
「サンバジ、貴様一人だけ楽をするんじゃない!」
「私は肉体労働は苦手なんだが、しかたない」
 サンバジが詠唱すると光る魔法陣の中から、水をまとったクジラが出現する。一匹二匹と増えていくクジラはミルミルの炎の壁を見る見るうちに食べてしまった。
「肉体労働は苦手だが、魔法は別でね」
 自分の嫌いな水の魔法により穴だらけにされてしまったミルミルの炎の壁が崩壊していく。
 遮る物のなくなった荒れ狂う炎が機械兵部隊を溶かしてしまった。
 すっきりしたレドフィンは大空に羽ばたくと次の狙いを竜戦車部隊に搾る。
「甲皇国の軟弱な飛龍どもめ! 人間なんぞに使われおって!!」
 レドフィンの一喝に縮み上がった竜戦車は、操縦不能に陥り散り散りに逃げ始めた。混乱して自らのコクピットを食い破る有様だ。
「男どもは死ねー」
 マリディシアが尻尾からばらまく毒ガスによって敵味方が倒れていく。
「これはエルフさんたちのためだから。砲火竜の竜火砲アーリー・ブラストッ!」
 アーリナズの左腕から高密度の熱光線が発射される。
「かかってらっしゃい! 全力でぶっ潰してあげるわ」
 リー・テンユーが得意の雷魔法と武術で敵をなぎ倒していく。


「もはやこれまでか。皆の者聞いてくれ。もし生き延びることがあったならば、誰にでもいい。私の言葉を伝えてくれ。このミシュガルドは今滅びの危機に瀕している。アルフヘイムと争っている場合ではないんだ。戦争を誘導し、禁断魔法を利用し、ミシュガルドを出現させた黒幕がいる。その黒幕は邪神を復活させこの世界を滅ぼさんとしている」
 ヤーヒムの言葉は部下たちには響かなかった。
 部下たちはやはり裏切り者かと、負けがこみすぎて隊長は狂ってしまったのかと、さんざん悪罵を投げかけてヤーヒムを置いて落ち延びていった。
「ヤーヒム! 今の話は本当なのですね」
「ああ、ハミルトン嬢。あなたの口から出た言葉なら皆も信用するかもしれない。飛翔魔法であなただけでも脱出を」
「あなたはまさか!」
「私とて無駄死にする気はありません。敵を食い止めてから脱出します。あとで合流しましょう」
 ミルミルはヤーヒムの言葉を酌んで戦線離脱した。
 ヤーヒムのもとに残ったのはわずかな機械兵のみ。黒騎士の騎兵隊にじりじりと押し込まれ、魔力タンクの遺棄地点まで押し戻されてしまった。
 シャーン、シャーン、シャーン。
 タンバリンの合図で魔力タンクに待機していた亜人兵たちが配置につく。
 タンバリンを鳴らし気をよくした黒騎士が得意満面で説明する。
「最初の魔力タンクは空だったが、次の4台には伏兵を潜ませていた。その兵を空の魔力タンクにも移動させ、今貴様を三方から狙っている」
 5台の魔力タンクの砲塔が回転し、ヤーヒムに狙いを定める。正面からはレドフィンが紅炎を吐こうとしている。逃げ場はない。
「しまった。ここが十字砲火点クロスファイアポイントだ」
 ヤーヒムの脳裏に光の十字架がよぎる。


 爆音は遠く離れた団子屋まで届いた。
「終わりましたね」
 緋毛氈の腰掛に座り黒いフードを目深に被った男が茶をすすっている。隣に座るイノウは団子を食べる手を止め、申し訳なさそうな顔をした。
「あのヤーヒムって人、悪い人じゃなかったべ。銭っ子もらったからオラあんたを手伝ったけど」
「しかたないんですよ。あのヤーヒムは第六感が鋭すぎる。団子なしでもいずれ真実にたどり着いていたでしょう。好奇心は猫を殺す。これが知りすぎた男の末路です」
 イノウはまた一口団子を食べた。
「後味悪いべ」


 ヤーヒムの追撃部隊を撃破した竜人たちは再び竜の隠れ里に去って行った。
 そしてまたダートも別行動を取りたいと言う。
「今回戦いを間近に見て思うところがあってのう。なぜクラウスやユリウスがあれほどまでに兵たちの心を引き付けたのか今なら分かるんじゃ。安全で暖かい司令部の中から兵を死地に送り込む指揮官を、兵たちが好むはずがない。クラウスもユリウスも兵と戦場で苦楽を共にしていた。兵たちがどちらの指揮官を信頼するか明白じゃな。わしも戦場に立たなければ」
 メゼツはダートの年寄りの冷や水をたしなめる。
「じじい無理すんな」
「なんの、なんの。ワシの戦場は外交じゃよ。今ならば優位に講和できるはずじゃて」
「それじゃあ、俺が護衛してやるぜ!」
「護衛は不要」
「甲皇国を甘く見ないほうがいい。あんた死ぬぞ」
「ワシの白髪首ひとつでことが収まるならそれもよかろ」
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┃>ダートにまかせる ┃→15章へすすめ
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┃ 密かに護衛する  ┃→16章へすすめ
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