Neetel Inside ニートノベル
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 港で会った野良猫がさも「ついてこい」と言わんばかりに案内した先は、寂れた商店の軒先だった。
「意味ありげな行動のわりに普通の場所に出たな」
「猫の恩返し的な何かを期待したのにな」
 そう軽口を叩きながら店に入る。
「何か恩売ったことあんの?」
「いやー、ないけど」
「いらっしゃい」
 突然の声にギョッとする。カウンターに老婆が一人立っていた。
「島の人じゃないね。何かお探しですか」
「あ、えーと……」
 乾物、駄菓子、土産物……島の日常生活に合わせた品揃えの中には、旅行客の自分たちが買いたいものもさしてない。アイスクリームでも食べようかな。そう思った時、魚沼が勝又の脇腹をつついた。
「あれにしようぜ」
 指の先には「メンチカツあり〼」の張り紙。
「港まで降りていって防波堤の辺りで食おうぜ」
 なぜ乾物屋にメンチカツがあるかはさておき、そいつはいいと勝又は思った。
「すいません、メンチカツ3……いや2個」
「2個ね、ハイハイ」
 注文を受けた老婆が奥に下がっていく。勝又がぼそっと呟いた。
「食いしんぼかよ」
「ちげーよ、あの猫食うかなって一瞬思ったんだよ」
 魚沼はそう言うと少し気まずそうに脇を向いた。
「猫に人間の食いもん上げちゃ駄目でしょ」
「わーってるよ! だから途中でやめただろ!」
 二人がやりあっている間に老婆が白い袋を抱えて戻ってきた。
「はい、240円ね」
 二人が120円ずつを出すと、老婆が袋を差し出す。数えてみると袋は3つあった。
「あの、僕らさっき二つって……」
「若いお二人に一つサービス。旅行楽しんどくれよ」
「そんな、お金払いますよ」
「いいのいいの。要らなかったら猫ちゃんにあげて。あの猫ちゃんはこれが好きだよ」

 店を出ると、あの猫はまだ店の前をうろついていた。二人から一定の距離を保ちながら視線を向け、催促するように鳴き声を上げる。
「どうする?」
「港まで降りるっつっても通じんだろうから、こいつのはここで開けよう」
 3つ目の袋に入っていたのは、鰹節をかけたカリカリだった。
「こんなのサービスされても猫にあげるしかないじゃん」
 猫の恩返しどころかただのたかりじゃないか、と魚沼はぼやいた。
「いや、むしろお互い恩を返し合ってる、みたいな感じか?」
「あー、婆さんと猫か。ああいうのはビジネスライクな関係って言うんじゃないか」
「確かに」
 二人は笑った。

       

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