Neetel Inside ニートノベル
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 先輩の差し出した胡散臭い長方形の紙切れを手に取って、俺は言った。
「引換券?」
「そうです。便利でしょう? 何にでも引き換えられますよ」
 恋とならね、と天使はお茶目っぽく付け加えた。
「ただし、本当の恋じゃないと駄目です。もし邪な気持ちで使うと……」
 バーンです、と天使がウインクする。俺は無視することにした。
「先輩、なんなんですかこのウザいのは」
「すまん。俺も散々文句を言ったんだが聞いてくれなくてな……」
「謝るぐらいなら最初からこんなもの持ってこないで欲しいんですけど……」

 先輩の話を総合するとこういうことだ。先輩の友人がその自称"天使"を伴って現れたのは1週間ほど前のことだった。
「引換券を引き取る奴を探している」というわけだ。
 引換券は誰でも有効。ただし、一度所有してから1週間が期限。オマケに期限切れの引換券には呪いの効果があるらしく、早急に別人に譲り渡さなければ、やはり『バーン』だと天使は説明した。

「その『バーン』って何なんですか」
「分からん。本人にも分かってないらしい。まあよくないことだろ、多分」
「で、僕にその役を押しつけようってんですか?」
「いやか? 好きな奴を彼女に出来るんだぞ?」
「それ、本気で言ってないでしょ」
 本気で言っていたら自分で使っているはずだ。
「悪いんだが、お前に拒否権はないんだ」
 先輩が突然横柄な口調になる。厭な予感がした。
「まさか触ったら所有権が移るとかいうんじゃないでしょうね」
「お、よく分かったな」
 溜息を押し殺しながら俺は言った。
「なんで言ってくれないですか」
「大丈夫だよ、本当の恋さえしてれば大丈夫だから」
「先輩」
 俺は慎重に言葉を選びながら言った。
「本当の恋ってどんなのだと思いますか?」
「ん? そうだな。その人だけを純粋に想っているか、とか」
「僕の考える本当の恋ってのはですね」
 精一杯の虚勢を張って言葉を絞り出す。
「伝えていないのにお互いがお互いを想いあってることだと思うんですよ」
「運命の恋ってことか? それも一つの正解かもな」
「そういうわけで、僕には本当の恋なんてあり得ないんですよ」
「そんなの分かんないだろ。やるだけやってみたらいいじゃないか」
「分かりますよ。残念ながら」
 そう、丸分かりだ。なにせ先輩が目の前でこうして未使用の引換券を持っているんだから。
「というわけで、お引き取り下さい」
 そう言うと俺は二人に背を向けた。

       

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