Neetel Inside ニートノベル
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 テレビにはニュース番組の国会答弁の様子が映っている。
「えー、我が国の財政状況が……」
 野党議員からの詰めに対する大臣の答弁だ。無味乾燥な言い回しに終始しているのが、動きのない画面とマッチしていて妙に完成度が高い。
 映像が会議場全体を映すものに切り替わった。『賛成多数で可決されました』というアナウンスが聞こえるが、立ち上がる議員はどこにもいない。こういうのって起立でやるのが普通だと思ってたんだけど、最近変わったのかな。立てない場合とかあるもんな。
 参った。こんなじゃあ教師失格かも。さっさと寝よう。俺はテレビのリモコンを手に取った。
***
 授業を終えて職員室に戻ると、教頭が声を掛けてきた。
「帰りに一杯どうだ?」
「あー……」
 一瞬断ろうとした。疲れて気分は最悪なので、出来れば直行で家に帰ってテレビでも見ながらポテチ食ってボーッとしたい。一方で、教頭の誘いを断ると後々面倒なことになることが多い。前回は飲み会の席で体育祭の役割分担の実質的な交渉が行われてしまい、欠席者は有無を言わさず面倒な仕事を押し付けられた。
「どうした? イヤな断ってくれて構わんよ。別に強制じゃない」
 ニコニコ笑いながら心にもないことを言う教頭。その顔してそんなこと言えるアンタが俺は怖いです。
「いや、行きますよ。いつもの店ですよね? 先に行って待ってますから」
「おっ、いいのか。いやー、気が効くねえ。じゃあ済まんが宜しく頼む」
 上機嫌で席に戻っていく教頭。俺は携帯を取り出した。
***
「あーい。それじゃ出席取るぞー、安藤」
「はい」
「石川」
「はい」
「伊藤努」
「はい」
 名簿を読み上げる声に淡々と一定間隔で返事が返ってくる。返事に反応して名簿にチェックを入れるペンの筆記音さえも、まるでメトロノームのように安定したリズムを刻む。お蔭で出席を取っているのに少し眠くなってきた。午後イチの授業は常に眠気との戦いだ。気合いを入れるべく少し伸びをして目線を前に向けた。
 席に居並ぶ大量の巨大な岩たちは、視線を向けられても身動きもしない。ただこちらから呼び掛けるのを黙って待っている。その様子をしばし見守った後、俺は点呼を続けた。
「伊藤真帆」
「はい」
 後ろの方の大理石が甲高い声を上げて答える。名簿にチェックを入れる俺。
 はあ、つまんねえ。来る日も来る日も同じことの繰り返しだ。なんか面白いこと起きねえかな。

       

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