Neetel Inside ニートノベル
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「タロウー! もう8時よ! 起きなくていいの?」
 母親の声で、タロウは目が覚めた。あれ……? 今日は日曜日じゃなかったか。思わずカレンダーを確認する。
「動物さんのお世話するんでしょう? 起こしてくれって頼んだのタロウじゃない」
 そうか、今日は飼育委員の当番だった。タロウは枕に顔をうずめたまま顔をしかめる。
 タロウは動物は好きでなかった。どちらかというと嫌いな部類だ。そもそもタロウは図書委員をやりたかったのだ。ではなぜ飼育委員なんぞやっているのか。それはサッカー部の石神くんにジャンケンで負けたからである。ちなみにそれ以降、図書室は定期的にサッカー部の溜まり場となっている。

「くそっ、このっ、ああもう!」
 今タロウはホワイト(白色レグホン、2歳、オス)のケツを必死に追いかけている。タロウがニワトリが嫌いな理由の一つはこれであった。捕まえられないのである。運動神経が鈍いせいか、意外に俊敏なニワトリを掴めない。時に威嚇するように突かれると、ビビって腰がすくんでしまう。お蔭でもう昼を回ったというのに、まだ掃除すら終わっていなかった。
「あれ、タロウじゃん?」
 小屋の外からの声に反応して顔を向けると、サッカー部の石神くんが立っていた。部活の帰りらしく、体操服にカバンの出で立ちである。
「ニワトリの世話、まだ終わってないんだ」
 石神くんはタロウの様子を眺めるとそう言った。心なしか、少し面白がっているようにタロウには思えた。
「手伝ってくれない?」
 自然とそう口にしていた。
「え? なんで。やだよ。めんどくさいじゃん」
 石神くんは露骨にイヤそうな顔をした。
「そうだ。思い出したんだけど、最近図書室の本棚や机が壊れたりボロボロになってるらしいね」
「なんだよ急に」
「それに何冊か本がなくなったって。確かマンガだよね。そういえば石神くんが前に読んでいたマンガって……」
「何が言いたいんだよ」
「別に。ただ手伝ってもらえるなら嬉しくてこのことは全部忘れちゃうなって」
 石神くんは黙ってタロウをジッと見ていたが、やがて言った。
「分かったよ。手伝えばいいんだろ。もっと素直に頼めよ」
「素直に頼んだら断られたじゃん」
「あーもう、うるせえ」
 ぶつくさ文句を言いながらホワイト(白色レグホン、2歳、オス)のケツを追いかける石神くんを見ながら、タロウは思った。
(毎回こうなら、飼育当番も悪くないかな)

       

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