Neetel Inside ニートノベル
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 重い扉を開けると吐き気を催すような淀んだ臭いが中から溢れ出す。女が助けを求めるように隣を見ると、男は優しく微笑んだ。
「大丈夫ですよ。これがいつもの状態ですから」
 そう言うと、女の手にそっと手を添えて、ゆっくりとした動きで扉を大きく開け放つ。
 まず目に入るのは、大きな刃やローラー等を持った機械の数々。それぞれが信じられないほど汚れていて、塗装は禿げて代わりに赤錆がびっしりとついているのが確認出来る。床には得体の知れない赤や黄色や黒の液体と怪しげな肉の破片が至るところに飛び散った跡があり、それらの表面はもれなく黒い光沢のあるもぞもぞ動くモノで覆いつくされていた。更に言えば、それら全てから、あの吐きたくなるような臭いが放たれていた。
「どうです。凄いもんでしょう」
 後ろに立った彼は誇らしげにそう言うと、女の前に回って「こっちです」と手招きした。女は歪みそうな表情筋を必死に抑えつつ、べっとりとねばつく床の上を音を立てながら歩いていく。二人がそばを通るたび、集っていたハエがワッと雲になって飛び上がり、周りをブンブンいいながら飛び交った。
「ここです」
 案内された所はちょうどこの倉庫の中心部分の辺りで、正面入口からは大きな回転式カッターの向こうにある少し奥まった場所だった。扉や窓からは丁度視線を遮られる配置。そこに『それ』は鎮座していた。腐臭としか言えないそれが、更に強くなった。
 黒い液体で彩られた物体は、ところどころ白くツルツルとしたものが表面に析出している。表面のほとんどはやはり虫が集っており細かな特徴まで視認することは出来ないが、その大きさや僅かに残る形、そして何より顔にあたる部分の開き切った瞳孔から、辛うじて人の姿と判別出来る。
「出来はどうですか?」
 男が女に向かって囁いた。
「……ここまでしろとは言わなかったわ」
 女は擦れた声で辛うじてそう言った。
「おや、なるべく凄惨にしろという要求をしたのは貴方でしょう?」
「だからって、こんな……!」
「おや、怖がってるんですか?」
 男は楽しげな口調でそう言った。
「大丈夫ですよ。我が社の凄惨技術は世界一ですから。誰にも作り物だとバレやしません」
「え?」
 女は思わず間抜けな声を出した。
「本当に作り物なんですか?」
「信じてなかったんですか?」
 男は呆れたように言った。
「なるべく精巧で凄惨な殺人現場を再現してくれと依頼したのは貴方でしょう」

       

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