Neetel Inside ニートノベル
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「美味しかったねぇ」
「ホント、ついつい食べ過ぎちゃって、お腹張って苦しい」
「ハハハ、妊婦か」
「産まれるぅ〜」
 電車の中で女どもがかしましく騒いでいる。ちょっといいところにランチでも行ったのか、食い物の話題で持ち切りだ。クソ、こちとら時間に追われて昼食休憩すらままならんというのに。
「あー、なんかお腹いっぱいになったら眠くなってきちゃった」
「大丈夫? 食べてすぐ寝ると牛になっちゃうよ?」
「お婆ちゃんかよ! あ、やべえ、マジ眠い……最寄りの駅ついたら起こして……」
「もう、仕方がないな」
 片方の女はあろうことか、そのまま本当に寝始めてしまった。静かになったのはいいが、友人の膝を借り、衆人環視の中で高鼾をかいているのを見ていると、これはこれでとさかに来る。流石に座席に寝転がったりはしていないのがせめてもの救いだ。
 これは一つお灸を据えねばなるまい。起きている方の女に話しかける。
「ちょっといいですか?」
「はあ? 誰ですか? この子の知り合い?」
 女はあからさまに疑いの目をこちらに向けた。
「いや、ただ我侭な友人を持って苦労してそうだなと思って」
「はあ、まあ、確かに苦労はしてますけど貴方には関係のないことです」
「どうです。私が貴方の言ったことを叶えて差し上げましょう」
 俺は隠していたスマホを取り出した。
「ちょちょいのちょい、と。はい出来上がり」
「何を言ってるんですか? うっとおしいんで離れて……え、何これ!? 何が起きてるの!?」
 変化は一瞬だった。瞬きを2、3度するうちに彼女の膝には一匹の小柄な雌牛が乗っていた。
「どうだ。さっき自分で言ったことだぞ? 嬉しいか?」
「ちょ、ちょっと……なにこれ? 夢? そうだよね、こんなこと現実であるわけないもの…アハハハハ」
 ふむ、ちょっとお灸が効き過ぎたか。女は現実逃避を口走りながら曖昧に笑っている。まだアプリの効果は残っている。彼女に変なことを言われないように一つ釘を差しておこうと口を開いた。
「言っとくが、あんまり適当なことを言うと……」
「うるさい、このゴミ虫! お前なんか豆腐の角に頭ぶつけて死ね!」
 おいおい、これはマズいぞ。取り消させなければ。だが一歩踏み出した瞬間に足がもつれる。近付いてくる地面に何故か落ちている豆腐のパック。くそっ、こんなことになるなら使わなければよかった。
 まあいいか、多分これ夢オチで終わるし。

       

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