Neetel Inside ニートノベル
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参ったな。私はフワフワと宇宙空間を漂いながら、そんなことを考えていた。目の前にはつい30分ほど前まで乗っていた宇宙船の残骸が漂っていた。その向こう、我が麗しの母星は遥か彼方の光の点だ。生命維持装置の残り時間は、確認する気にもなれなかった。自分の死ぬ時間を知りたい人って、ただのマゾなじゃないかと思う。まあ、こうして宇宙服を着込んで船外に脱出した私も相当なマゾかもしれないが。
ふと、残骸の中からゆっくりとこちらに丸いものがやってくるのに気付いた。近付いてみると、両腕で抱えられそうなサイズの耐真空ケースで、ガラスの窓がついている。中を覗けば案の定というか、赤ん坊がすやすやと眠っている。ケースが勝手に動く筈もないから、親が船外に放り投げたのだろう。私に追いつくぐらいだから、赤ん坊の親はかなりの強肩だったものと見える。
私は少し考え、そして、そのケースをあらん限りの力でもって、残骸の方向への投げ返した。ケースはみるみる遠ざかり、すぐに点となって消えた。小さくなっていく元宇宙船を見ながら、私は「衝突音が聞こえなければいいな」とぼんやり考えていた。その願いが絶対に叶うと知るのは、30分後のことである。

       

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Neetsha