Neetel Inside ニートノベル
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 クレーンで吊り下げられた巨大な鋼鉄の円柱状の物体が、ゆらゆらと左右に揺れながらゆっくりと移動していく。
「オーラーイ、オーラーイ、オーラーイ、ストップ!」
「位置確認しまーす」
 その左右ではヘルメットを被った作業員たちが、それぞれ位置を指導したり、周囲の安全確認をしている。目視確認していた作業員が声を上げた。
「オッケーでーす」
「はい、じゃあ下ろしまーす。下についたら合図してください」
 クレーン担当の作業員が操作をすると、軽く軋みながら鋼鉄の物体が降下を始める。
「確認しまーす。2m……1m……50cm……10cm……はいストップ!!」
「停止確認! 作業入って!」
 鋼鉄が安置されると作業員がわらわらと群がり、壁面から伸びるワイヤーやチェーンを鉄の塊の側面にある金具へ引っ掛けたり取りつける。簡単に見えるが命がけの作業だ。
「固定作業完了しました! 開蓋作業入ります!」
 各員の作業が終了したのを確認すると、チーフの男が報告。作業員たちが脚立を昇り、円柱上部の固定具を外したり、クレーンの金具を調整したりする。
「チーフ、オッケーでーす」
 作業員の報告に頷くとチーフがクレーン担当に指示を飛ばした。
「クレーンアップ! 開蓋お願いしまーす」
 クレーンが再び動くと共に、円柱上部の鉄板が徐々に持ち上がっていく。蓋がずれて覗いた中からは顕ゆい光が溢れる。作業チーフが頭上のやぐらを見上げた。
「目視確認、湯温確認お願いします!」
「目視確認完了! 異常は特になし! 湯温正常! いつでもいけます!」
 監視員の報告を受け、チーフが宣言した。
「ではこれより本日の営業を始めます! 状況に応じて営業を止めて保守作業を行うので、召集に30分で応じられるように待機しておいてください。では各自適宜現場より退避!」
 言うが早いか、上の方からバタン! と扉が開く大きな音がして、ついでドタドタドタと賑やかな足音が聞こえてきた。
「よっしゃー! おれが一番乗りー!」
「おい、勝手に横入りすんな!」
「くぉらお前ら! 先に身体洗ってから入れっっちゅうとるじゃろ!」
 子供のような声多数と壮年男性を思わせる深く低い怒鳴り声とが聞こえたかと思うと、ドボン! ドボン! と立て続けに水音が鳴り響き、ついで作業場に真っ赤に燃えた灼熱の飛沫が振り注いだ。
 ここは金属の神が通う銭湯、「鉱炉湯」。"湯"は全て、溶鉄だ。

       

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