Neetel Inside ニートノベル
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 久々に会った友人と飯でも食おうと近くの店に入ったら、衝立の向こうから妙にテンションの高い声が聞こえてきた。
「ねえ、呑みましょうよ、一緒に呑もう?」
 かなりうるさい上に、しつこい。しかも相手の声が聞こえないところを見ると、独り言のようだ。
「うるせえな。おちおち飯も食えねえ」
「電話かな? にしては声が大きいけど」
 突然衝立が踏み倒されて中から女が現れたので俺たちは腰を抜かした。女はビールの入ったグラスを片手に、真っ赤な顔をキョロキョロとせわしなく動かしている。かなり酔っ払っている様子だ。
「さっきから言ってるでしょ! 一緒に呑もうって!」
 さっきの独り言はこちらに向かって話しかけていたということらしい。俺たちは素早く目線を交わした。断っても承諾しても面倒くさいことになるのは確定だ。ならばいっそご機嫌を取った方がいい。
「いいですよ。こっち座ってください」
「いいのー? ありがとうー! イエーイ、カンパーイ」
 女は遠慮なくどっかと腰を下ろすと、突然乾杯を求めてきた。
「乾杯って……俺ら水しか飲んでないですし」
「何よー。あたしとは乾杯してくれないっていうのー!」
 女が膨れっ面をしたので俺は慌てて水のグラスを差し出した。
「いやいや違いますよ、はいカンパーイ!」
 こんな具合に酔っ払いのご機嫌取りを続けること30分。
「あたしもう帰らないと」
 女は突然そう言うと、荷物を持って立ち上がる。そのままスキップをしようとして足をもつれさせると、派手な音を立ててぶっ倒れた。
「ちょっと! 大丈夫ですか? 帰れます?」
「大丈夫大丈夫! ねえ一緒に餃子食べていこー? あっちのラーメン屋でさぁ」
「いや、止めときます……」
 正直これ以上酔っ払いの介護をする義理はない。
「なによ、怒ることないでしょ。いいもんねー」
 ベーと舌を出すと女は出ていった。俺たちは首を捻りながら顔を見合わせた。
「俺らもそろそろ帰るか」
「すいませーん、お会計お願いします」
 店員が運んできた伝票を見て、俺は首をかしげた。
「あれ? お前ビール頼んだっけ?」
「いや? 俺は飲んでないけど……なんで?」
「いや、一杯だけ注文したことになってるから……おかしいな」
 店員を呼んで事情を話すと、店員は驚いた様子で言った。
「あれ? 先に帰られた方ってお連れ様じゃなかったんですか?」
 友人は息を吐きながら言った。
「すげえな。ビール一杯であそこまで酔えるのか」

       

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