Neetel Inside ニートノベル
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 地鳴りのような振動と衝撃音が道路に響き、土煙が上がる。人々が這う這うの体で逃げ去った後の交差点には、鬼のような仮面をつけた屈強な男が一人仁王立ちしていた。
 男は傍らに停車していた乗用車を手に取った。そのまま片手で発泡スチロールの箱のように持ち上げると仮面の前に運ぶ。途端にメコメコと奇妙な音を立てて乗用車のヘッド部分が内側にめり込んでいく。めり込みはどんどん大きくなっていき、乗用車はそのまま消えた。
「ぬはははは、美味い美味い! やはり3万もの部品で出来た工業製品だと付喪神の量が違うわい!」
 そう上機嫌で怒鳴ると、男は次の獲物を物色し始めた。その様子を遠くのビルの屋上から二人の男が見守っていた。片方は双眼鏡を覗き込みながら不安気に口を震わせ、もう一人はよれよれの白衣を着て眼鏡を押し上げている。双眼鏡の男が呟いた。
「このままでは国中のものが食い尽されてしまいますぞ……」
「ふふふ、まあ心配なされるな。米俵を用意すればよい」
「米俵?」
「そうだ。米一粒に何人の神様がいるか知ってるか?」
「ええと、昔ばあちゃんから聞いた話ではたしか88柱とか……」
「奴の言葉を聞いたろう。アイツはモノを食っているのではなく、モノに宿る神を食らっている。自動車部品なら1個につき1柱で約3万柱。だが米俵には米粒が約270万粒ある」
「つまり……270万*88で2.4億近くもの神が!?」
「実に乗用車8000台相当だ。これだけ食わせれば奴も満足するだろう」
「なるほど! 早速運ばせます」
 双眼鏡の男が携帯で手短に指示すると、部下たちが現れて米俵を運んでいく。それを見届けたのち、二人は再び向き直り、固唾を飲んで事態を見守った。
 フォークリフトやヘリの宙吊りで次々に『鬼』の回りに落とされる米俵。
「なんだこれは……? 差し入れか?」
 『鬼』はその一つをひょいとつまみ上げる。次の瞬間、米俵はなくなっていた。
「足りん足りん! 米俵一俵には6柱しかおらんのだぞ! こんなので足りるか! もっと食わせろ!」
「先生! 話が違いますよ! 先生……先生?」
 先ほどよりも激しい勢いで暴れ回る『鬼』に慌てた男が双眼鏡から手を離して後ろを向くと、白衣の男の姿は既にそこにはなかった。地面に脱ぎ捨てられた白衣には、『当てが外れた! メンゴ』と書き置きが貼りつけられている。
「チクショー、あの男!」
 双眼鏡の男の言葉が虚しく木霊した。

       

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