Neetel Inside ニートノベル
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会場に響くシャープペンシルの音。カリカリ、いやサリサリ? 或いはシャリシャリ……なんかかき氷みたいだ。テストを問いていると気にならないが、テストを解かずに聞いていると、意外とうるさい。この中で寝るのは中々大変だろう。自分で出している音だと気にならないということなんだろうか。それとも作業中は多少の雑音はOKということなのか。
視線を前に落とすと、白紙の解答用紙がある。模試の存在を知らない人がこれだけ見たら何の紙なのかさっぱり分からないだろう。規則性のない長方形の羅列に、不均一な余白。かと思えば方眼用紙かのような細かい正方形が書いてあったり、罫線だけのブロックがあったりする。
逆に模試のことを分かっている人なら、解答用紙を見ただけである程度それらしい解答を書くことだって出来るだろう。まああくまで「それらしい」だけの解答だが。試しにやってみようか、などと下らないことばかり思いつく。
下らないことを思いつくのは、大抵もっと下らないことを考えている証拠だ。模試会場にいながら模試への興味を完全に失念してしまった僕は、模試とは関係ないことを考えつつも、模試をブチ壊すことばかり考えていた。
模試をブチ壊すとは、いかにも魅力的な字面である。しかしやるのは結構難しいと僕は考えていた。例えば奇声を上げて教室から脱走するとどうなるか。最初の一瞬はヘゲモニーを握れるかもしれないが、すぐ拘束されるなり、放置されるなりしてしまうだろう。10分もすれば会場には静寂と秩序が戻ってくる。これでは面白みにかける。
爆破予告はどうだろう。これならこの後のテストは全て中止になるだろう。ブチ壊し大成功である。もっとも、その後の自分の人生と引き換えになるが。延期になったテストを後で振替実施されるのも気にいらない。
つまるところ、罪にならない程度に、しかし徹底的にやっつけられる手段が必要である。その為には、誰にも見られない場所で、テストに必要なものを再生出来ないレベルで破壊しなくてはならない。そんな手段が、一つだけあるのである。
トイレを装って会場から出る。目当てのものはすぐに見つかった。廊下には誰もいない(当たり前だが)。僕は素早く非常ボタンを押すと同時に非常階段から外に飛び出した。コートは置いてきたので冬の冷気が肌を差す。後ろからスプリンクラーが水を撒く音が聞こえてきた。不良試験監督で悪いな、と心の中で謝った。

       

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