Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 試験会場となる中庭広場には大きな時計塔が立っており、その根本に仮設の試験場が3つ設けてある。学生は順番にそこに入って、試験監督の目の前で実技試験をすることになっていた。
 自分の試験を終えると、私は昨日今日限定で弟子のミッコ、シザキ、ヒダリの3人に最後の訓示を行った。
「いい? ここまで来たらもう出来ることは限られてる。落ち着いて、集中する」
 期末で出されるのは染色魔法、浮遊魔法、発火魔法の3種類のどれか。ミッコは浮遊、シザキは発火、ヒダリは染色がそれぞれ苦手だった。苦手でないものはそこそここなすのだが、そうでない奴は暴走を始めるともう始末のつけようがない。昨日一日で矯正するのは、如何に学園一の才女と言われる私でも不可能だった。
「緊張したら、そうだね……時計塔のてっぺんのことでも考えるんだよーー聞いてる?」
 私は皆の顔を見渡した。ミッコは目をギョロつかせながら時計の針を睨んでいるし、シザキはしきりに舌打ちを続けている。ヒダリの半開きになっている口からよだれが垂れそうになっているのを見て、私は彼女たちが得意分野の問題に当たることを願った。

 彼女たちが試験場に入ってすぐ、ゴゴゴ……というイヤな振動が地面を震わせ始めた。地震? いや違う、この振動はもっと直接的な、工事の時のような……何か地面から抜き去られていく時のような……。
 私がハッとして時計塔に目をやると、ちょうど塔の基礎部分が地面から抜けようとしてるところだった。試験場は3つとも完全に壊れている。右端の試験場の中から、ミッコがもの凄い顔をして塔を睨んでいるのが見えた。
 ミッコ、と私が叫ぶより早く、塔は宙に浮いたままカラフルに色付き始めた。ヒダリの口からは謎の詠唱が間断なく呟かれているに違いない。
 皆が固唾を飲んで見守る中、最後に塔は、奇怪な色の炎を上げるとイヤな音を当てて飛び散った。シザキが呆然としながら塔だったものの消し炭を眺めていた。

「追試いつ? まだ勉強するんでしょ」
 試験の打上げと称して私の部屋に上がり込む3バカ達に、気を効かせて私がそういうと、ミッコがこう言った。
「いやぁ、個人教授はもういいかなーって……」
「どうして? まだ出来てないでしょう」
「だってナツの顔見るたびにあの花火思い出しちゃう……プククッ」
「いやあ、デカい花火だったね」
「最高に汚かったけどな」
「ハッハッハッ」
 二度と教えまいと私は思った。

       

表紙
Tweet

Neetsha