Neetel Inside ニートノベル
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 静謐な美術館に鳴り響く警報。「そっちに行ったぞ!」「逃がすな!」展示室に警備員の声が響き渡る。突然二階の窓が一つ開いて、男が一人身を乗り出した。大きな箱を持っている。
 男が窓からそのまま飛び降りると同時に、窓の前に軽トラックがスーッと走り込んできた。男が荷台に飛び乗ると、トラックはそのまま走り去った。その時、横の茂みにもう一つ小さな影が現れていたことに、男も運転手も気付いていなかった。

「それで、こいつはいったい何の冗談だ?」
「俺に怒るなよ」
「お前に怒らなくて誰に怒るんだよ!」
 新渡戸は山岸を怒鳴り飛ばすと、箱の中をもう一度覗き込んだ。やはり見間違いではない。盗み出した彫像が入っているはずの箱の中では、金髪の美少女がスヤスヤと寝息を立てていた。
「何をどうしたらガキと彫刻を間違えられるんだ? お前の頭には精液でも詰まってんのか?」
「そんなバカな。俺が箱に入れた時は確かに彫刻だったんだよ」
「じゃあ箱の中で彫刻がガキに化けちまったってのか? 冗談じゃねえ。お前がロリコンだからって世の中でガキが高く売れるわけじゃねえんだぞ」
 新渡戸はそう言うと、少女を抱きかかえて立ち上がった。
「なにしようってんだ」
「こんな箱の中じゃ可哀想だろ。ベッドに寝かす。てめえは床で寝ろ」
 勝手に宣言して立ち去る後ろ姿を眺めながら、山岸は「ロリコンなのはお前だろ」と呟いた。

 翌朝、山岸の部屋から少女の姿は消えていた。少女の処遇をどうするのかでさんざ揉めた後だったので、山岸は驚くよりも、厄介事が消えてせいせいしたと思った。ベッドを整えていると、新渡戸が血相を変えてやってきた。
「おいロリコン、とっととずらかるぞ」
「どうしたんだ急に。サツでも来たのか?」
「バカ、サツよりある意味怖え奴だ。俺たちは奴らにまんまとだし抜かれたんだよ」
 新渡戸は1枚のカードを差し出した。そこには幼い筆致で短い犯行声明だけが載っていた。
『キデンノ アジトノ オタカラハ スベテ イタダイタ ロリ・トウゾクダン』
 山岸は思わずうなった。ロリ盗賊団は最近裏社会で話題の新興盗賊団だ。斬新な手法で同業者の戦利品を根こそぎ奪うと聞いていたが、まさかこんなやり方だったとは……。
「ここはもう使えねえ。30分で荷物纏めろ」
 新渡戸はひょいと犯行声明を取り上げて去っていく。その後ろ姿を見ながら、山岸は呟いた。だからロリコンなのはお前だろうが。

       

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