Neetel Inside ニートノベル
表紙

日替わり小説
3/17〜3/23

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「もっとホースこっち送って! あと50cmー」
 屋上からの呼び掛けに応じてリールを繰る。ホースに均等に穴を開けていき、透明なチューブを差し込み、タッチボンドで回りを固める。屋上でそれを受け取ったエリィが器用にチューブを軒先にぶら下げていく。マシロが立ち上がって伸びをすると、チューブが陽光を照り返してキラキラと光った。
「お疲れー」
 いつの間にかエリィが降りてきていて、マシロの背中にコーラの瓶を押しつける。コート越しにゴツゴツした感触だけが伝わった。
「それ、冷たくないよ」
「おっ、そりゃそうだ。ほれ」
 マシロが静止する間もなく、コーラ瓶が首筋から服の中に滑り込む。
「ひゃっ、ちょっと、エリィ!」
「暴れたら危ないってマシ……わっ」
 背中に手を伸ばそうとして足を滑らせたマシロは、支えようとしたエリィ共々盛大に転んでしまった。深い雪のベッドの上に倒れ込むと、積もった雪がブワッと舞い上がる。
「ごめん、大丈夫?」
「全然痛くない。それに謝るならあたしの方だし」
 クスリと笑って、エリィがマシロの鼻をツンと突く。
「にしてもマシロ、ホント運痴だよね」
「なっ、人が気にしていることを……食らえっ」
 雪上でキャットファイトを始める二人を、午後の日射しと雪の照り返しが優しく包んでいた。

 マシロが蛇口を捻るとしばらくして、チューブに開けた穴からチョロチョロと水が垂れ始めた。水は速度を緩めながら、軒先をぴちょん、ぴちょんと滴り落ちてくる。この水滴が次第に凍っては伸びてを繰り返せば、つららのカーテンが出来上がる。人によっては疎ましい存在となるつらら。祝福されない者同士、せめて私たちだけはこうやって存在を肯定してあげたい。明日の朝、記念写真を取ろうとマシロは思った。
「こんなんでホントに上手くいくの?」
 同じように窓越しに様子を見上げながらエリィが聞いた。
「分かんない、始めてだし……。でもエリィが頑張ってくれたし、きっと上手く行くよ」
「おだててももう登ってやらんぞ。めっちゃ怖かったんだからな!」
「分かってるって。私のワガママ、付き合ってくれてありがとうね、エリィ」
 マシロがそう言うとエリィの顔はサッと赤くなった。「なんで急にそういうこと言うかなもう……」などととブツブツ呟いている背中をそっと抱いて、マシロは囁いた。
「今日やることはもうおしまい。明日までゆっくり休もう?」
 エリィは恥ずかしそうに、静かに頷いた。

       

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