Neetel Inside ニートノベル
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日替わり小説
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「礼ちゃん、見て。あの子また来てるわよ」
 おかわりを注ぎに来たマスターに言われて、私はカウンターの方を向いた。例の男の子だ。見た目は中学生ぐらい。一人で本を読んだりノートを広げて問題集を解いたりして過ごしている。ここはとりわけ高いわけではないが、それでも中学生男子にとっては痛い出費だろう。
 いや、本当は知っている。知っているというか、分かるのだ。本と手の隙間からちらちらと覗く目、私のそばを通る時のわざとらしい顔のそむけ方を見れば、彼の来店が何を意味するかぐらいは。
 私はショタコンじゃない。でもこうして好意を向けられてみると、悪い気はしないものだ。ちょっとサービスのつもりで彼に目線を送ったり、意味ありげに微笑んだりすると、面白いぐらいに反応してくれる。わざと店が混んでるタイミングを狙い、彼の隣で話しかけることまでやったりした。ハニカミながら応答してくれる彼のかわいさに、私はすっかり夢中になった。今から思えばゲーム感覚に近かったと思う。
 ところがある日を境に突然、彼は来なくなってしまった。お金がなくなったのか? それとも、私のやりすぎで彼がヘソを曲げてしまったのだろうか。
「礼ちゃん、大丈夫? 最近心ここにあらずよ」
 最近ではマスターにそんなことを言われる始末。いかんいかんこんなでは、もっとしっかりしなければ。
 すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干して店を出ようとレジに向かう。ドアを開けたら、外から男の子が飛び込んで来た。ドアを内側に開いていた私はちょうど彼を手を開いて受け止める形になる。レジに立っていたマスターが口笛を鳴らした。
「ど、どうしたの? そんなに慌てて……そういえば最近会わなかったね?」
 震えそうになった声を抑えて努めて冷静に応対する……したつもりだ。彼は私を見上げ、顔を真っ赤にしながら懐に手を入れ、小さな包みを取り出した。
「これ……」
 差し出されたものを受け取る。手と手が触れるときに、緊張してるのがバレないかとひやひやした。
「……手紙?」
「はい。こんなこと、お姉さんに頼むのは失礼なんじゃないかってずっと悩んでたんですけど……勇気を持って一歩踏み出さないと、何も変えられないかなって」
 妹宛の手紙を握りしめて呆然とする私に向かって彼は言った。
「どうか、僕に妹さんを紹介してください。お願いします」

       

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