Neetel Inside ニートノベル
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 その日も帰りの電車は酷い混み方をしていた。俺の目の前には男女のカップルが立っている。満員電車だってのに、仲睦まじく二人でスマホを覗いている。あーもうリア充め爆発しろ。仕事の鬱憤をぶつける勢いで目の前のカップルを睨みつける。
 突然、ドア横に立っていた男が爆発した。続いて女が。声を上げる暇さえなかった。ぴちょんと髪から雫が滴り落ちてきた。下を見れば、俺の全身は赤い液体に染まり、白とピンクの破片を吹きつけられたようになっている。
 『阿鼻叫喚』という言葉が似合う電車の中で、俺は、このスーツはもう着れないな、と考えていた。

 あのあと何度か動物の番で実験を重ね、俺は、あの爆発が自分の『カップルを爆発させる能力』によるものだと結論した。
 そもそも最初の時、『爆発しろ』と思ってから実際に爆発するまでのタイミングが良すぎた。どうやら意志によらず、感情的に『爆発』を望むと爆発してしまうらしい。当面はカップルに合わないようにするしかなさそうだ。
 インターホンが鳴った。昔からの顔馴染み二人組だ。不味いなと俺は思った。周りには隠しているようだが、俺の見る限り二人はカップルだ。今会うのは危険過ぎる。適当に追い返そう。

「なんで来るんだよ」
「なんでとはご挨拶ね! 折角彼女が来てあげたのに」
「頼んだ覚えはない」
「まあまあ怒るなよ。リョータ、邪魔して悪いな」
 仲の良さを見せつけてくる。クソ、死にたいのかよ。嫉妬が抑えきれなくなってきた。俺は無言で二人を睨む。
「ねえちょっと、早く開けてよ。彼女を他の男のそばで放っておくつもり?」
 仲の良いカップル。もう限界だ。俺の意志を超えて感情が厳命する。すまん二人とも、爆発しろ……え?
「なんつった?」
「だから早く開けてって……」
「その後。お前が、俺の彼女?」
「ちょっと、なにそれ! 私がこないだの飲み会の帰りに告白したの本当に忘れちゃったわけ?」
「だから言ったろ? リョータあの時めっちゃ酔ってたって……」
 どういうことだ? エーコが俺の彼女? じゃあこいつらはカップルでもなんでもなくて……むしろカップルなのは……。
 身体が中から膨張を始めたのを感じた。なるほど、そうか。

 俺とエーコは、カップルだったのか。

「いやー、心配してついてきたけど、相変わらずの痴話喧嘩っぷりだな! リア充爆発しろ!」
 楽しそうなケンゴの声が、霞みゆく意識の中に響き、俺は爆発した。

       

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