Neetel Inside ニートノベル
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 息子の春休みの課題の読書感想文。提出前に添削してくれと言われ、原稿用紙を広げた私は気を失いかけた。
 『「オーディンの杖と9の魔王」を読んで』……ちなみに『オーディンの杖と9の魔王』とは、私が中学校の時に書いた剣と魔法の無敵主人公による冒険活劇小説……一言で言えば厨二病黒歴史のことである。
「たかし、これ、どこで読んだの?」
 震える声で問い正すと、息子はあっけらかんとして答えた。
「お母さんに『何読んで書けばいいか分かんない』って言ったら渡されたよ」
 なんてことだ。あいつ、こんなメガトン級の巨大爆弾を所持していたのか。過去の歴史への不干渉を定めた黒歴史不拡散条約に違反しているではないか。私は早急に強制査察を行うことを決めた。
「たかし、父さんはこれから母さんの部屋で少し探し物をする。内緒の探し物だ。決して誰にも言ってはいけないよ」
「うん。分かった。お母さんにも内緒だね」
「それから、この感想文は全然ダメダメだから、違う本で書き直しなさい」
「ええ〜めんどくさい……このままじゃダメなの?」
「ダメダメ、絶対にダメ」
 可哀想だが、ここはきっぱり言っておかないと大変なことになってしまうからな。

 復讐、もとい、査察のため妻の部屋を家捜ししていた私は、ドギツい原色の装丁のコピー本を見つけてまたしても気を失いかけた。『オーディンの杖と9の魔王』と題されたそれは、どう見ても私の黒歴史そのものであったからだ。
「たかし、感想文に使った本って、母さんの部屋に戻した?」
「ううん、まだ僕の部屋」
 はて。私は首を捻った。目の前にあるのはどう考えても私の黒歴史そのものである。中身もパラパラと確認したが、当時の恥ずかしい記憶そのままだ。では息子は何を読んで感想文を書いたのか。答えは息子の持ってきた本を見て氷解した。似たようなドギツい原色の装丁のコピー本の奥付には、一人暮らしを始めた上の息子の名前が書かれていたからだ。
 そもそも北欧神話の簡易版を上の息子に布教したのは私だった。モチーフが一緒ならストーリィが被るのは当たり前だ。血は争えなかったということか。にしてもタイトルまで被るか普通。

 私が妻への復讐、もとい、制裁措置を検討していると、下の息子が聞いてきた。
「ねえ、結局感想文どうすればいいの?」
 私は短慮ののち、北欧神話の簡易版を取り出した。
「これがいい。最初に読んだ奴のシリーズだからすぐ読めるはずだ」

       

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