Neetel Inside ニートノベル
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さて、「風雪佳」が生まれてから今日で節目の五日目。面白い。「彩葉雪」と比べてメキメキと成長していく。討伐やダウジングで収集品を集めつつクエストをこなしていく。俗にいう作業ゲーと忌み嫌われる状態だが、強くなっていく風雪佳がたまらなく楽しい。こうなってくるとパーティプレイに興味が出てくる。やったことないので、プレイマナーやその他についてそこはかとなく不安がよぎるが、まあ初めてである旨を伝えればきっと大丈夫だろう。パーティ募集掲示板から自分と同じくらいのレベルのパーティ募集を探す。
【ロイヤルフォレスト1‐誰でもどうぞ‐】
ふむ、一つ良さそうなパーティを見つけた。掲示板の情報からして、パーティ平均レベルが21レベル。風雪佳のレベルが現在20だから、ほぼちょうどいい。問題は「ロイヤルフォレスト1」というマップに行ったことがないが、全体マップを参照すれば辿り着けるだろう。ここは覚悟と度胸も必要だろう。覚悟を決めて加入しよう。緑色のパーティ加入というボタンをクリックする。ぴこーんと言う小気味のいい音がして、インターフェースにパーティメンバーの情報が表示される。
リーダー【鴉鬼】レベル22  【リュシア】レベル18 【そらっち】レベル21 
これに【風雪佳】レベル20が追加され、4名のパーティとなった。鴉鬼さんは男性の魔法使いキャラ。リュシアさんは私と同じ女性の格闘家キャラ。そらっちさんは銃を使うエンジニア系だ。早速チャットで挨拶が飛んでくる。
『こんばんは。宜しく。』
『こんばんわー!よろしくお願いしますねっ!』
『こんばんは、よろしくねー』
三者三様の挨拶に対し、返事をしないのも失礼だ。トゥインクルスターをプレイして初めてのチャットをしよう。
『こんばんわ、よろしくお願いします。』
やばい。すごく緊張する……変じゃないだろうか、不愛想じゃなかっただろうか。第一印象を明るく見せなければならなかったのではないか。考え出すと収まることのない恐怖が、コミュ障の脳をぐるぐると周回し続ける。まずはメンバーのいるマップへ移動しなければ。「ロイヤルフォレスト1」へ行くルートを全体マップで参照する。どうやら今居るエリア、「レイクアイランド」から洞窟マップを経由して行けるらしい。私は早速移動を開始した。
『今湖か、こっち来れる?』
『移動しています。パーティプレイは初めてですので、ご迷惑をおかけするかも知れませんが、よろしくお願いします。』
リーダーの鴉鬼さんからだ。そちらのマップへ向かっている旨、初めてである旨を伝えつつ「ロイヤルフォレスト」を目指す。
『初めてなんですか、楽しく狩りしましょうねw』
『分からないことがあったら、何でも聞いてねっ』
リュシアさん、そらっちさんから頼もしい反応があった。これは早く行かなくては!スマートにプレイできる所を見せて第一印象を良くしないと!

 と、気合十分に出発したのはいいが、洞窟マップで迷った。洞窟マップは画面右上の地図が限定的にしか表示されず、どちらが目的地方面なのか分からない。加えて敵が強過ぎる。私がいた「レイクアイランド」の敵キャラは、こちらから手を出さなければ攻撃をしてこない非アクティブ型だったが、ここの敵は自ら攻撃してくる。おかげで近寄られたら倒さなければならないし、手に負えない数が来たら逃げるしかない。まずい。みんな待ってるのに、辿り着くことすら出来ないなんて。
『大変申し訳ございません。洞窟で迷ってしまいました。』
現在の状況をチャットでメンバーへ報告する。正直文字を入力している時間も惜しい状況だ。周りにいる敵キャラが否応なしに向かってくる。
『マジか、俺ちょっと迎えに行ってくる。』
『あ、鴉鬼さん私が行きますよ。今洞窟のポータル目の前ですからw』
『俺じゃ洞窟の敵は手に余るから、リュシアさんよろしく頼むよ;』
『はーい』
助け舟を出してくれるらしい。パーティに入れてもらった挙句、迎えにまで来てもらうとか、何たる醜態……穴があったら入りたい。
『すみません……不甲斐なくて。リュシアさんよろしくお願いします。』
なんとか隙を見つけ返事を送信するが、気が抜ける状況ではない。ここは敵と戦わず、一気に駆け抜けよう!洞窟内で私を探しているのか、リュシアさんからの返事はない。何とかして合流しなければ。
 以下、風雪佳視点の「トゥインクルスター」(妄想)

まずい。まず過ぎる。何とか敵をすり抜け進んだはいいが、進んだ先が行き止まりだったなんて。引き返すにはやり過ごしてきた敵が余りにも多すぎる。この洞窟に入った時から一切気の抜けない状況ではあったけど、現状が最も危機的と言って間違いないだろう。狩りのために用意したポーションも残り少ない。このままではやられて街マップへ逆戻りだ。そんなことになったら嫌われてしまう。それだけは嫌だ。まだ直に逢ったことも無いのに。でも生きてここを抜ける為には、覚悟を決めて戦うしかない!
「よし、やってやる!!とあああああぁああ!」
「ハードナックル!ワンツーパンチ!」
敵に技を叩き込みながら、包囲を破りにかかる。しかし戻りの道にウロつく敵たちは膨大で、なかなか前へ進むことが出来ない。小さな傷を積み重ねていき、その度にポーションを減らしていく。
(くっ、まずい。このままじゃ……!)
ポーションが足りない。持てるだけ持ってきたつもりだったが、戦士の私は荷物を持てる量が限られているのだ。戦線を維持するための物資をすり減らし、ジリ貧に追い込まれていく。
(もう、ダメ……かも)
いっそもう街マップへ戻った方がいいかも知れない。これでは合流できてもろくに狩りを出来そうにもない。ああ、私はなんて無力なんだろう。半ば諦めていた時だった。
 不意に体の芯が暖かくなり、力が漲ってくるような感覚が走った。なんだろう、と思った瞬間、通路の奥で敵が倒される音が聞こえた。音の主は瞬く間に近寄ってきて、私を守るように前へ立った。
「お待たせ!遅くなっちゃいました!」
目の前へ現れたその人は、長い黒髪を靡かせる女性の格闘家だった。もしかして、この人がリュシアさん?
「あ、えーっと……ありがとうございます。」
「いえいえ!大変でしたねw風雪佳さんこっちですよ!おりゃあああ!!」
言うや否や、リュシアさんは華麗な動きで敵の攻撃を回避し、間髪入れずに技を叩き込み倒していく。技はなんの変哲もない、私も習得している「ハードナックル」だ。でもそれ以外は私と違っていた。的確に命中させ、一撃で倒すこ都の出来る十分な攻撃力。同じ職業なのに、使い手が異なるとこうも違うものなのか。
「私から離れないでくださいね!アクセラレータの効果が乗れば、風雪佳さんでも戦えると思います!」
先ほどの力が漲る感じはそれか。どうやら攻撃力を上げることのできる技があるらしい。でもそれ以前に、リュシアさんの動きが熟練されていて私では同じことが出来そうにない。
「すみません……ポーションがもう残り少なくて……」
「分かった!すぐここから出ましょうw」
……その後何とか敵の包囲を抜け、リュシアさんの道案内でロイヤルフォレストへ着くことが出来た。私たちを心配してくれたのか、残りの二人も出口のところで待っていてくれた。
「お疲れー。初めましてだね。パーティリーダーの鴉鬼です。」
「大変だったね!やっと会えたねw俺がそらっちだよw」

(以上 妄想終了)

ああ、よかった。何とか合流できた。それにしてもリュシアさんは上手だったなぁ。私もいつかあんな風に戦えるようになりたいな。パーティでクエストをこなしながらレベル上げをして、レベル24になった。1日の成果としては十分過ぎる。やっぱりパーティプレイは効率がいいものらしい。
『俺はそろそろ落ちるよ。』
『あ、なら俺も~』
『解散ですかねw』
もう時刻は1時近い。今日はこれでお開きだろう。さすがに眠気が来てるし、明日も学校だ。
『今日は楽しかったです。ありがとうございました。』
『あ、待って待って。風雪佳さん友達登録いい?』
『良ければ俺もお願いw』
『私もいいですか?』
解散の空気の中、別れの挨拶をする前に友達に誘われた。……やったー!初めての友達だあああ!!!
『はい。是非お願い致します!』
3人と友達登録を済ませ、挨拶をしてログアウトする。心地よい疲労感を感じつつ、床に就くことにした。
「ん~~!今日は楽しかったなー!なんだかクセになっちゃいそう。」
背伸びをしながら、また明日のプレイに思いを馳せて、私は眠りについた。

       

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