Neetel Inside ニートノベル
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   「初めてのギルド」

「さて、今日もやりますかー」
あれから毎日のように遊び続け、ゲーム内フレンドとの関係も良好となってきたある日のこと。相変わらず彩羽は高校はそこそこに(一人の友人もいない)ゲーム漬けの毎日を送っていた。

【風雪佳】 Lv42/格闘家
以下、風雪佳視点(ゲーム内)
『風雪佳がログインしました。』
「こんばんわ~」
ログインした私は、フレンドチャットに対して挨拶する。鴉鬼さんは結構早い時間からいることが多い。
「こんばんは。いつも通りだね。」
「はーい!それだけが取り柄ですから!鴉さん、今日はどうします?狩り?それとも先約有りですか?」

最近フレンドもぼちぼち増えてはきたが、プレイが板に付くにつれて固定のメンバーと活動することが多くなってくる。私の場合は最初に友達になったあの三人のグループだ。グループは以前の三人に加え、生産職系男性キャラのクァーツォさん、女性魔法使いキャラのユウナさん、生産職系女性キャラのにゃんたまさん、私を加えた7人グループである。日によって一緒に活動したりしなかったりだけど、取り敢えずログインしてる人には何かする前に声掛けする、みたいなルールがなんとなぁーく出来上がっている。自らの居場所が存在しているようで心地良かった。

「んー、ふーかが良かったら、今日はこれから『ギルド』作ってみないか?」
「ぎるど??」
ふーかというのは私のあだ名だ。名前の風雪佳のもじりらしい。だが「ギルド」というとイマイチピンと来ない。確かにそういうものはあるらしいのだけど、作るとは一体?
「そう、仲良しグループで作る、なんのことはない集まりみたいなもんだよ。ほら、最近遊ぶメンバーが固定してきたしさ。楽しいんじゃないかなーと。」
うん。それは非常に興味深いなあ。是非流れに乗りたいところだ。
「ふふん、いいですねそれ!乗った!!」
「おうよ、そう言ってくれると思ってたぜ。」
お互い顔を突き合わせニヒヒ、と企み顔になる。
「さしあたってはどこでどーすればいいんでしょうね、鴉さん分かります?」
「ああ、ちょっと待ってな。ロイヤルシティ広場の近くにギルドオフィスがあるからそこで登録するらしい。詳しい方法は……まあ現地で確認しよう。俺も良く分かんないわ。」
「りょーかい!!私ロイティの羽持ってますよ。」
「ないす!ワープで直ぐ行けるな。」
「れっつごー!」


私と鴉さんはワープアイテム『羽』を使い、ロイヤルシティへ飛んだ。パーティリーダーが使用すれば、付近にいるパーティメンバー全員がワープできる便利な道具だ。
「広場の近くのギルドオフィス……何回もこの広場に来てますけど、記憶にないですね……」
「うん。俺もwやっぱそんなもんだよねぇ」
広場付近のギルドオフィスを二人で捜すが、程なくして
「あ、あれじゃないですか?北側のほら。」
「あれだな……ほんとに直ぐそばじゃないか。」
「あっはっは……」
目的のギルドオフィスはほんとに広場の直ぐ隣だった。レトロな赤レンガ造りの建物に、二人でお邪魔する。
「ぎるどを作りたいんですが。」
担当と思しき人に対し、ずいっと効果音が鳴りそうな感じでカウンターに身を乗り出し、用件を伝える。これを見て鴉さんは
「いやいやいや……まず落ち着け。ギルド作成の要件をお聞きしたいのです。」
「むむ。普段の若干尊大かつ半分気取ったような独特の態度である鴉さんは、普段のそれとは全く違う低姿勢で丁寧な言葉で担当の方に話しかけ、少し見直した反面、少し悔しいです。」
「ふーか、心理描写をいちいち口に出さなくていいぞ……」
「和ませようと思いましたのにw」
担当の方は、そんな私たちのやり取りに笑みを浮かべながら、これまた丁寧にギルド作成要件を説明してくれた。……なにやら私が一人だけ子供みたいじゃないか……。説明によると、ギルド作成の要件は以下の3つ。

 ①事務手数料100万ギル(たっけえ……)
 ②最低4人のギルドメンバー
 ③4人のメンバーでパーティを組んで、リーダーが担当の方に話し掛ける

だそうだ。
「ひとつも満たしてないじゃないですか!!お金どーします!あと二人どーします!」
「落ち着けてば。あと二人くらい待ってりゃ誰かくるんじゃないか?」
「お金は!!私は30万くらいしかないですよ;;」
「うむ。俺が50万程度だ……足りんな。」
「ちくしょー!」
「女の子がそんな言葉使うんじゃないよ;」
一通り二人で途方にくれた後、真面目に相談を始める。
「で、人だが。」
「いつものメンツですよねーやっぱり。今日そらっちは顔出せないって言ってましたよ。」
「リュシアは多分まだまだ来ないな。あまり早い時間には顔見せないからな。」
「リュシアさんお金持ってるかなあ;」
「持ってないだろう。一昨日くらいに武器を新調したって言ってなかったか。」
「あとにゃんたまさんとユウナさん?あの二人ならお金もってそうじゃないですか?」
「確かに持ってそうだ。だが協力してくれると思うか?」
「別の『ギルド』に所属していた訳ではなさそうでしたから、土下座すれば何とかなりませんかねw」
「ちょ、プライドまでかなぐり捨てる!?」
結局お金も人も都合出来るいい案は浮かばず、狩りに行く気力も萎えた私たちは、オフィス前でぼーっと座って、誰か他のメンバーが来るのを待つことになった。


[おばんっす!]
と、しばらくグダグダしながら待っていたら、私のフレンドチャットにメッセージが届く。よく一緒に遊ぶメンバーの一人、生産系職のクァーツォさんだ。
「お、鴉さん!クァーツォさん来た!!!」
「ん、そう言えばカツたん居たっけな、何で忘れてたんだ?」
「あははははは……鴉さんそのあだ名クァーツォさん嫌がってませんでしたっけ;;怒られますよ;」
「いやぁカツたんの名前入力し辛いんだよねぇ~」
「とりあえずここに呼び出しましょうw」
「ふーかも意外と強引だよなぁ」
[クァーツォさんこんばんは!大事な用がありますからロイティ広場に来ていただけませんか!?]
とりあえずフレンドチャットで半ば強引に呼び出す。ただクァーツォさんがお金持ってるとは思えないんですけどね。(ぉぃ
[ん?なになに?]
[ひみつwwお願いしますねw]
[分かったすぐ行くよー]
ふっふっふ、これであと一人か。
「すぐ来ますってw」
「さすがカツたんだな。ふーかの呼び出しなら断れまい。」
「はい?」
「いや、気にすんなー」


程なくしてワープで到着したクァーツォさんがくる。エンジニア風の見慣れたシルエットの人物が広場の少々離れたところに現れた。ほんとに早いなあ。パーティ羽ソロで使ってまで来たのか。
「いよっす!」
「こんばんは!」
「カツたんおばーん。早速なんだけど20万くんね?」
鴉さんが先程オフィスに行ったときの私を彷彿とさせる様な真意が伝わるのか伝わらないのか判然としないような要求をする。
「ヤダwなにに使うんだよw」
ほらやっぱりな。普通そんなもんぽんぽんくれるわけが無いです。
「ちょ;鴉さん……もっと言い方ってものがあるでしょう;;」
「しょうがねーな、ふーか頼んでみろよ。多分くれると思うぜ。」
「いやいやいや、意味分かんないですから;;いいからもう鴉さんは黙ってて下さい、私が交渉しますから!」
仲間相手にはとことんテキトーというかなんというか、鴉さんなりの冗談のつもりなんでしょうけど、分かりづらいのですよね。彼の口調的に不機嫌そうにも見えますし。
「実はギルドを作ろうっていう感じの話になりましてですね、要するにギルド解説の事務手数料と創設メンバーが足りないという話でして。」
クァーツォさん、彼は空気の読める男だ。私たちが得体の知れないやり取りをしている間も隣で静かに聞いてくれている。私は彼に向き直り、『なるべく』真面目な顔を作りながら説明する。
「うん、ギルドいいね!俺が加わればあと一人と銭20万で作れるっていうことだよね?」
「そういうことです。本来なら私たちで用意しなきゃいけないのですけど、宜しければ工面していただけますでしょうか;」
ここまで話を切り出して、クァーツォさんが難色を示す。
「すまない、メンバーとして加入するのは大歓迎なんだけど、お金の持ち合わせが無くてね;」
「なんだよカツたんww武器売れば20万くらい工面できるんじゃね?」
「おいwwww武器売ったら狩りできねーわwwww鴉さんこそ武器売ればいけるっしょ?」
「あ、俺の武器安モノだからさぁ」
「まあまあ待ってください……誰かの武器を売るネタは封印しましょう;」
結局、とりあえずあと一人+20万になり、状況が好転したとポジティブに考えることにした。そろそろログインするかも知れないにゃんたまさんとかユウナさんを当てにするしかないらしい。

       

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