Neetel Inside ニートノベル
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 夕刻、作戦域に向けて川口は自身の車を走らせていた。

「今回は時間通り到着しそうね」
 耳に装着する小型無線機から既に大谷の不機嫌さが伺える。
「仕事はきっちりこなしてるんだ。少しくらいは勘弁しろ」
「それだけじゃないでしょ。毎回、作戦の出鼻挫いて自家用車で移動するなんて普通――」
「分かった、分かった。それは後で聞く。それよりもこっちの質問が重要だ」
「――どうぞ」
「まず、今回の相手のことだ。あー、これ何て書いてある、『くじら』か?」
「『しゃち』よ」
「鯱か。すげーな、海洋界の王者じゃねえか」
「別に強さでつけられた名前じゃない。社交性や計画的な狩りの仕方からね」
「いいぞ、その調子で答えろ。確かにこいつについてるランクは低い、たった星2だ」
「今じゃ信憑性がない。現に3名が――、これは前も話したでしょ。あくまで過去のデータから算出されたにすぎない」
「その通りだよな。じゃあ過去のデータになぜそのヒーロー3名撃退の件が含まれていねえんだ。作戦自体は分かる」

「―――それは」
「深夜在宅中を狙った急襲作戦、流石正義のヒーロー。そして失敗、お見事、ヒーローの鏡」
「茶化さないで」
「じゃあそっちも誤魔化すな。その中身はどうなった? 一人は未だに意識戻らず、だが残りの2名は『復帰に向けて調整中』、書いてあるぞ?」
「話さないのよ」

「誘惑か?」

「それは、あなた達に限ってあり得ない。知ってるでしょ? それに本部だって何度もテストして白だった」
「ますます分からねえ。情でも移ったのか。肝心の部分が空白じゃ、警戒のしようがねえよ」
「正直なところ、あなたの経験則が今回は一番頼りになるかもしれない」
「っは、うまくまとめやがって。じゃあ報酬は倍だな」
「じゃあ、こっちが『大目に見てる分』先に清算してもらわないとね」

 車は高速道路を降り、まもなく到着する作戦本部に向けて進む。

       

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