Neetel Inside 文芸新都
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 「この木の時間は5000年。そして、長い役目を終えたこの木は、今、この瞬間から、少しずつ朽ちていく。この木だけは、時間が止まることで、時間が進み始めるようになるのさ。」
 一枚。また一枚。と、木から、緑濃い葉が落ちて行きました。その葉には、木が5000年の間、少しずつ、しかし、確実にため続けた様々な思いが詰まっていました。
 良死朗は、その葉を一枚一枚手に取り、そして、思わずその葉を、口に含み続けました。
 木の思い出を、体の中で消化でもすれば、何かが変わるかもしれないと、根拠なく信じて疑わなかったのです。
 木の5000年は、無駄ではなかった。木から落ちる葉全てを口に含んだ良死朗でしたが、理解できたことは、そんな事ぐらいで、この木が一体、5000年の長きにわたって、何を感じ、何を考え、何を思ったのかなど理解できるはずもありませんでした。
 「私は、ダルマ死体を作ろうと決意したあの夜から、自分の死にざまが良死朗と言う名前と相反するものになる事は、覚悟していた。でも・・・」
 良死朗は、口の中で何度も咀嚼した後になんとか吐き出すように、
「なんて、人生だ。」
と、何度も何度も何度も何度もそうつぶやきました。
 いつしか、永遠なる男は姿を消し、そして、また白亜の世界に、良死朗は、今度はただ、一人、残されたのです。

 人が知覚できないほどに、長い時間が過ぎ去りました。
 時間の流れていない世界の中、良死朗は、まだ生きていました。
 時間の進まないその場所では、良死朗の肉体にも時間が流れる事もなく、老いることも、朽ちることもありません。いつか見た、良死朗のまま、まだ、白亜の世界にただ一人残されていました。
 良死朗は、この間に、生まれてからの全ての出来事を、1秒単位で思い出し、そして、その出来事について、噛みしめながら、いつか永遠なる男が良死朗に問い詰めた「学んだもの」を求め続けていました。
 しかし、答えなどわかるはずもありませんでした。
 永遠と言う言葉の実は、男一人には重すぎたのです。
 分かることなどないのです。
 なぜなら、ここは何もない場所。

       

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