Neetel Inside 文芸新都
表紙

鬼の宴に 鬼は哭く
1:沈黙の悲願

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 鬼家は甲・乙・丙家のように表立って鬼家と名乗ることもなく存在していた。
歴史の表舞台には決して立たぬように……それが暗黙の掟のように
彼らは滅ぶことなく生き続けてきたのである。
天使の「純血種」と人間との混血児たち-その始祖とされる初代皇帝クノッヘンマルク……
その長男クノッヘンゲリュスト系統の出身である皇帝クノッヘンの子孫たちの
エントヴァイエン、ユリウス、カデンツァ、ミゲル。
彼らや彼らの親たちが次世代皇帝の継承権を巡って争い合うのを傍目に見て、鬼家の者たちは考えた。

目立ち、歴史に名を残すことは確かに名誉であろう。名誉は富を生み、そして一族の発展に繋がる。
だが、それは同時に滅亡というリスクも孕んでいる。
たとえ、歴史に名を刻む偉業を成し遂げた後でも暗殺や没落を迎え、御家断絶となった者たちは
数知れない。

人間には分相応というものがある。だが、そもそも分相応という概念すらが
根本的に間違っている。人の上に立とうと頂点を目指せば必ず敵を作る。
それは不可避である。たとえ、その敵を排除しつくし、頂点に立ったところで
確かに名誉も尊敬も富も得られるだろう。

だが、待っているのは いつ訪れるか分からぬ墜落への恐怖である。
例えるなら、金玉を愛撫してくる美女たちに何十何百人と囲まれてこの世の
絶頂と言えるほどの快楽に身を任そうが、隙あらばいつ金玉を握り潰されるかも分からないという
恐怖は拭えない。これは絶対に否定し得ないことである。
かつて多くの美女に金玉を愛撫されたという人生の絶頂期をいくら経験しようとも、
金玉を握りつぶされた後の人生に果たして価値などあるものか。
名誉だの尊敬だの富だの……そんなものは失ったとしても努力次第でいくらでも取り戻せる。
だが、潰れた金玉はもう二度と元には戻らないのだ。
世の中全て 金玉あっての物種である。

だったら、最初からこの世の絶頂と言える快楽、名誉だの尊敬だの富だの……
最初からそういうものには手を出さないのが正解と言える。
だからこそ、鬼家の者たちは最初から継承権争いには参加などしなかった。
参加者の末路は語るまでもないだろう。

その決断はある意味正しかったのかもしれない。
当初は200人を超すとされていた継承権候補の皇子皇女たちは
今や両手で数える程度となっている。
要因としては……次々と暗殺されたり、殺されはせぬまでも
自身の経済力や実力以上のことをしようと
身の丈に合わぬことに手を染めた結果、社会的に破滅して次々と潰れていった。

いずれ生き残った者が跡を継ぎ、クノッヘン皇帝の後継者となるだろう。
果たしてその時に「皇帝」という銘柄価値(ネームバリュー)が生きているだろうか。
皇帝が皇帝たるのはクノッヘンの生き様あってのものだという者もいる。
分裂していた骨大陸全ての国々を骨統一国家 通称:甲皇国としてまとめあげた偉業は
クノッヘン一代の力によって成し遂げられたことは揺るぎない。
たとえ、今やショタコンのエロじじいと影で揶揄されていようがクノッヘンが
皇帝であることを否定できる者など居ない。それはクノッヘンが
家族を守り、民を守り、星屑のようにバラバラだった人々の心を一つにした愛があったからである。
鬼家の者からすればそれは愚かな行為に映ったであろう、
だがそのお陰で骨大陸が平和を迎えたのも事実だ。
たとえ愚かだと揶揄されようと平和のために国を統一した男こそ、「皇帝」の銘柄価値は尊いのである。

しかし、その彼の跡を継ぐ者たちの姿に果たして愛などあるだろうか?
継承権争いのために身内すら手にかける彼らの子孫の生き様が……
彼ら自身に責任が無いケースも勿論あるだろう……だが、そのような争いで皇帝というものは手に入れるものなのだろうか?
その戦いに勝ち、皇帝の座についたところでその時代が長く続くとは決して思えない。

鬼家の者たちはそう判断していた。
今は爪に火を灯す生活なのかもしれぬ……だが、いずれは巻き返せる。
天使の「純血種」の血を引く者たちに支配された骨大陸を
いずれ鬼の「純血種」の血を引く者が手に入れる時がきっと来るのだと……

       

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