Neetel Inside ニートノベル
表紙

なつのひ
3

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あきらの発した言葉に、わかなはただ何も言う事ができなかった。
頭の中には色々な想いや言葉が去来しては泡のように失せ、しかしどれも声として発されることはない。
それと同時に、自分が随分とデリケートなところに土足で踏み入ってしまったことを後悔する。
あきらはもう、前に向き直って歩き始めていた。

「……ごめん」

絞り出すように、それだけを言うのがやっとであった。

「気にしてねぇよ。事実は事実、なったものはしょうがない、俺は俺、お前はお前。とりあえずなんとかして、お前を元の世界に戻す方法を考えないといけないな」

――随分、あっさりと割り切るんだね?

言おうとして、やめた。
祖母であるイツが亡くなったことも、わかなが突然に現れたことも、全てまるで見透かしているかのように淡泊なリアクションを取るあきらに違和感を抱く。
それを言ったら、わかなも『いるはずのない人物』としてこの世界に現れたことを、随分あっさりと飲み込めてしまえているのだが。
しかしそう割り切るのを手伝わせているのが、あきらのドライな態度であるような気もする。
と言うより、現実を受け入れるにはあまりに突飛すぎて、まだ夢だと思っているのかもしれない。
これが夢ならどんなに良かったか。
あきらにバレないように無言で右の頬を自力でつねってみたが、痺れるような痛みが走るだけだった。

容赦なく照り付ける日差しの下を、二人前後に並んでとぼとぼと、もしくはてきぱきと、もしくはてくてくと歩いて行く。
5kgのすいかを持っているわりにはあきらの歩調は随分と軽快で、そのあたりはさすが男子と言ったところか。

10分というのは意外と早いもので、そうでなければあきらの歩くペースが早いからで。
わかなの記憶通りの場所に建っていたイツの家、本村家はわかなの知っている本村家の姿ではなかった。

「え……ここ? ちょっと待って、おばあちゃんち、こんな新しくないよ」
「それはお前んちのばあちゃんの家の話だろ。俺んちのじいちゃんちはこうなんだよ」

本村勝俊と朝倉あきらが暮らす家は、平屋ではあるものの随分と新しい。
歩けば軋んで揺れる、わかなの知っている本村イツの家とは随分と違っていた。

「震災あったろ。あれで半壊したから、親父が援助して建て直した。その一年後に浮気が分かって、修羅場だったよ」

とりあえず、早く入れ。
そう言われて、ほぼ新築同様の本村家の玄関ドアを手が塞がっているあきらの代わりに開ける。
老人向けらしく、玄関前に段差はなく、ゆるいスロープになっていた。

「お、お邪魔しまーす……」

これで自分の知っているイツの家と同じだったら、もっと違和感が大きかっただろう。
そう思えば、勝俊の家が新しいのは救いかもしれなかった。
先程あきらから言われた『田舎だから声が通る』のを気にして、小声で挨拶しつつあきらの背中を追いかけた。

       

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