Neetel Inside 文芸新都
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No36「宇宙道徳」

カラテレンビクトリーの必殺の貫き手が、ンモデルガの腹を貫いた。
ビクトリーの後ろには両断された、あるいは粉砕された他の5体の怪獣、宇宙人の姿がある。
タイの海岸を舞台に始まった侵略王、シャーニイト星人の再生怪物軍団と、カラテレンビクトリーの激しい戦いは、激しい死闘の末、カラテレンビクトリーになんとか軍配があがったのだ。
既にビクトリーの周囲の街から住民は避難し終えてあり、あたりには海から聞こえる波の音だけが響いている。
6体の怪物を倒したカラテレンビクトリーだったが、決して無傷ではない。
怪物達の攻撃で、背に、脚に、腕に、腹に、傷を負い、血を滴らせている。
対し、水平線の向こうに立ち、戦いを眺めていたシャーニイト星人は全くの無傷だ。

改めてシャーニイト星人に構えをとるビクトリー。
幾多の惑星を滅ぼし、多くの宇宙道徳を守る戦士達を倒してきたシャーニイト星人。
その星人を前に、傷を負ってなお、カラテレンビクトリーは怯んでいない。
油断なく拳を構え、じりじりと間合いをつめ始める。

と、突如、シャーニイト星人の背後に、これまでよりも二回りは大きい巨大な穴が現れ、そこから見たこともない巨大な怪物が現れた。
身の丈はビクトリーの倍、100mはあるだろう。
一つ目で直立した人型をし、全身を筋肉で覆っているその怪物の名は、宇宙最強の怪獣、ニイトキング、その完全体だ。

「ウーーン」

低い男の様な声でそう鳴くと、巨大な波しぶきをあげ、巨体を跳躍させるニイトキング。
海岸に立つカラテレンビクトリーから見て、水平線に近い位置にいたにも関わらず、たった2歩でビクトリーとの距離をつめたニイトキングは、その巨体でビクトリーの正拳突き並みの速度で拳を放ってきた。
飛びのいてかわすビクトリーだったが、ニイトキングの拳が空を切っただけで地面の土が爆発し、ビクトリーの全身に舞い上がった土が激しくぶつかる。
反撃の貫き手を放とうとしたビクトリーだったが、背後に気配を感じ、身を翻すと、間一髪、その脇腹を背後に突然現れたシャーニイト星人のコルク抜きのような右手が掠っていった。
息つく間もなく、そこにニイトキングが拳の連打を放ってくる。
避けれないと判断し、宇宙回し受けで拳を迎え撃つが、受けきれずに弾き飛ばされ、後方の山脈に勢いよくたたきつけられるビクトリー。
体勢を立て直す間もなく、目の前に瞬間移動したようにシャーニイト星人が現れ、右手のコルク抜きを放ってきた。
星人の右手がビクトリーの右わき腹を貫通して回転し、激しい血しぶきが噴出する。
ビクトリーはそれをこらえると、シャーニイト星人の顔面に渾身の空手チョップを放った。
だが、シャーニイト星人は後方に瞬間移動して攻撃を容易くかわしてしまう。
続けてビクトリーは距離をつめ貫き手を、正拳突きを、腹の痛みをこらえながら必死に放つも、瞬間移動で攻撃をかわすシャーニイト星人を捉える事ができない。
更に星人はビクトリーの後ろに瞬間移動し、衝撃波を発生させて、ビクトリーをニイトキングの方へ吹き飛ばした。
腹から血をふきながら高速で飛んできたビクトリーめがけ、ニイトキングは高速で踏み込み、力いっぱい拳をたたきむ。

「ウ~ン~」

ニイトキングの鳴き声と共に凄まじい音がして、カラテレンビクトリーは近くの山まで吹き飛ばされ、2度バウンドした後山岳部に墜落し、動かなくなってしまう。
更にニイトキングの目が不気味に輝き、次の瞬間、ビクトリーを核兵器の爆発に匹敵する凄まじい閃光と熱が包むこんだ。

「ウウーーン」

次いで、もう一発、二発。
余りの熱と衝撃に、周囲の建造物や木々が燃え上がって吹き飛び、山が崩れ去ってしまう。
ニイトキングの攻撃が止むと、ビクトリーのいた場所はきのこ雲に包まれ激しい地揺れが周囲に発生した。
もうもうと上がる黒煙の中をにらむニイトキングとシャーニイト星人。
そこに、煙を割って再びカラテレンビクトリーが現れ、シャーニイト星人目掛けて飛び蹴りを放ってきた。
しかし、シャーニイト星人はそれをマジックハンドのような左手で受け止め、ニイトキングに投げ渡す。
ニイトキングは飛んできたビクトリーに拳を食らわせ、真下の地面に思いっきり叩き落とした。
潰れたカエルの様になりながらも、再び立ち上がろうとするビクトリー、それをニイトキングは巨大な脚で何度も踏みつけ、ビクトリーの口から血しぶきが飛ぶ。
更にニイトキングは今度は思い切り踵で踏み込んできた。
上からの強い圧力に身動きも取れず、口から吐血し、苦しむビクトリー。
それでも何とか、ビクトリーは這い上がろうと体に力を入れる。
力んだ事で穴が開いているビクトリーの腹と、全身の傷から血が噴き出し、ミチミチと嫌な音が響くが、構わず立ち上がろうとするビクトリー。
だが、ニイトキングの足はびくともしない。

「諦めずに最後まで戦うか、宇宙道徳の為に戦う戦士はいつもそうだな」

地面に這いつくばるカラテレンビクトリーの前に、シャーニイト星人が現れ、Tシャツのような体にある顔が、ビクトリーを見下しながらそう言った。

「私はそんな宇宙道徳を守る戦士が、自分の無力さに苛まれ、絶望しながら死んでいくのを見るのが好きだ」

シャーニイト星人の右側の顔が意地の悪い笑みを浮かべながらそう言うと、左手を上に向ける。

「教えてやろう、カラテレンビクトリー、今世界中を私の蘇らせた怪物達が襲っている」

必死にニイトキングの足の下から這い出そうとしていたビクトリーの動きが一瞬止まった。

「何…ぐがっ!」

ニイトキングの足に更に重さがかかり、顔を上げていられず、地面に潰れるビクトリー。

「カラテレンビクトリー、お前は自分が物語の主人公や何かだと思った事はあるか?」

シャーニイト星人はすべての顔で楽しそうにビクトリーを見下しながら、語り始めた。

「だとしたら、それは間違いだ。お前は何も特別ではない、私はお前よりも何倍も強い宇宙の戦士を何人も倒してきた。
そして地球よりもずっと高度な文明も滅ぼしてきた。
そんな私に、お前が勝てる道理は全くない」

カラテレンビクトリーはそれを聞くと、渾身の力で顔を上げ、シャーニイト星人を睨みつける。

「そんな事はない!」

力強く、ビクトリーは星人の言葉を否定した。
シャーニイト星人はそれを鼻で笑い、虚空に手を伸ばして穴を作り出す。

「見るがいい」

穴の中に左手を突っ込み、何かを取り出すシャーニイト星人
それは、ビクトリーと同じサイズの腕が幾つも重なった、なんともグロテスクなオブジェだった。

「お前と同じ事を言いながら、死んでいった戦士達の腕だ」

自慢げに、ビクトリーに腕の塊を見せるシャーニイト星人。

「それがどうした!」
「皆、お前と同じようにあがき、お前と同じように最後まで諦めず、そして最後にこうなった」
「だがそれは、私ではない!」
「同じさ、お前には逆転する要素が無い、他の連中と同じように、いや、やられた奴らよりも更に無い、ゼロですらなく、マイナスだ」
「違う、ここは地球であり、私はやられた戦士達とは違う、カラテレンビクトリーだ」
「…だからなんだと言うんだ」

そう言って、シャーニイト星人が腕を勢いよく振るうと、彼方から飛来してきたタイ空軍の航空隊が凄まじい衝撃波を受けて一撃で全滅してしまった。

「何故お前達はそんな愚かに現状を認識しようとしないんだ?どこにも希望がないという現実から、何故目を背ける、もっと絶望しろ」

シャーニイト星人は屈むと、ビクトリーの顔を覗き込んだ。

「カラテレンビクトリーよ、お前がもし、降伏し、私の配下となるのであれば、命だけは助けよう」
「断る」
「何故だ?ここで犬死するよりも、もっと多くの物を生み出す可能性があるというのにか?」
「貴様は間違っている。間違った者に付き従っても、最後には幸福はない」
「何を言う、私よりも強い者は無い、私を間違っているという者を全て撃破すれば、私は正しい者になるのだ」
「いや、お前は間違っている、例えお前がそれをなしたとしても、その先にある物にお前は永遠に満足できない、一個体の幸福を追求しても、その先に真の幸福なんか無いんだ」
「「「…何故言い切れる」」」」

ほんの少し、シャーニイト星人は動揺したのだろう。
全ての顔が、ビクトリーにそう問いかけてきた。
ビクトリーは力一杯星人を睨みながら、返答する。

「なら、お前は心から断言できるのか?たった一人で幸福になれると」
「っ……」

途端、黙るシャーニイト星人。
侵略者の王をと呼ばれ、圧倒的な力を振るうシャーニイト星人。
そのシャーニイト星人が、その言葉には反論できなかった。
星人はわなわなと震えながら、上空に幾つものモニターを展開する。

「最後に見せてやろう、お前の守っていた星がどうなったのかを。…絶望しろ」

やがて、モニターの向こうに世界各国の現在の様子が映し出された。
都市はどれも破壊され、無残な有様になっている。
その様子を見て、ビクトリーは不敵に微笑み、シャーニイト星人は驚愕した。

なぜなら、すべてのモニターの向こうでシャーニイト星人が送った星人と、別の星人が激しく戦っていたからである。






スドルボ星人の戦闘艇とは違う、サメ型の戦闘艇が夜のニューヨーク上空を飛びかい、スドルボ側の戦闘艇を次々と撃墜していく。
それに乗り込んでいるのは、三つ目の宇宙人、スキーム星人達だ。
スキーム星人達は、スドルボ星人を上回るアクロバティックな軌道で飛行し、正確な射撃をもってスドルボ星人を撃ち落としながら、ガス弾の様な物で霧を消滅させていく。
その様子を地上から眺めていた一人の青年が、自分の上空を飛んでいくスキーム星人の戦闘艇の乗組員を見て、会心の笑みを浮かべた。

「ギ…、来てくれたのか」

青年、ジョージ・M・ギーワは、かつて自分を助けてくれた少女、スキーム星人のギに両手を振った。
他人と協力しあえる種族だけが、宇宙へ出るほどに文明を発展させる事ができる、かつて彼女が言った言葉を体現するように、彼女は地球の危機に仲間を連れて助けに来てくれたのである。

「フォーメーションをとって!でかいのを落とす!!」

2丁拳銃を連射し、スドルボ星人の戦闘艇を撃墜したギは、仲間のスキーム星人達に合図を送った。
彼女の言葉に応じ、彼女を中心にⅤ字に展開するスキーム星人達。
巨大な翼竜、モークプロメルスはそれめがけ、口から高熱火球を放つが、スキーム星人達はそれを容易くかわし、モークプロメルスに四方から一斉に銃撃を見舞う。
体をレーザーが貫通し、苦しむモークプロメルス。
既に霧は消滅し、モークプロメルスは再生する事はできない。
相手の姿勢が崩れた隙を逃がさず、ギはモークプロメルスの真上に回ると、戦闘艇の後部の尾ひれのような部分を巨大な光の刃に変えて、急降下した。
閃光一線、首を切断され、崩れ落ちて灰になるモークプロメルス。
スキーム星人達はそれを確認すると、眼下で呆然と戦いを見つめているアメリカ人達に手を振って見せた。
星人達に悪意が無いことを感じ取った地上の人々から、一斉に歓声が沸き上がる。

「ギ!ありがとおおおお!!」

地上で自分の名を呼び、ジョージが手を振っていることに気づいたギは、彼に満面の笑みと共に手を振り返して見せた。






モスクワでは、ツインテールの少女の姿をした巨大な宇宙人、ミンサッカ星人は、両手をふるい、必死に子供達を操ろうしていた。
だが、星人の洗脳波は別の波長に妨害され、子供たちは正気を取り戻し、ロシア兵に保護されてと共に避難していく。
その頭上には、三本のリボンの上を綱渡りをしながらミンサッカ星人達の方へ向かっていく、ギリシャ神話の登場人物のような姿の女性の姿があった。
かつて地球人の精神に干渉し、カラテレンビクトリーと揉めた末に宇宙へ帰っていったジャデッル星人だ。
彼女もまた、自分が一度追い払われたにも関わらず、地球の為に戻ってきてくれたのである。
何故、そこまでの事をしてくれるのかは、地球人と精神構造の違うジャデッル星人なのでわからない。
だが、どうやら彼女も、根柢の部分は地球人と同じ様だ。

自分達の方へ接近してくるジャデッル星人に、スコール星人が斬撃波を発射する。
だが、ジャデッル星人は人型の黒い物体を多数展開し、前方にバリアを張って星人の斬撃波を弾き、反撃に光線を連射した。
スコール星人は瞬間移動する間もなく次々と光線に貫かれ、爆発四散する。
横でその様を見ていたミンサッカ星人は一瞬青ざめるが、包丁の様な武器を取り出すと、叫び声をあげてジャデッル星人目掛け突っ込んできた。
ジャデッル星人はそんなミンサッカ星人の周囲に黒い人型物体を多数展開し、一斉射撃を浴びせ、容赦なく粉砕する。
爆発四散するミンサッカ星人、避難していた人々から沸き上がる大歓声。
ジャデッル星人は歓声を上げて自分を見上げるモスクワの人々を見下ろしながら、にんまりと大きな笑みを浮かべた。






ブエノスアイレス一帯に広がったカビ、メルビ星人は、突如現れた無数の蛸の様な怪物によって次々と捕食されていた。

「お母さん、何アレ…、怖い」

大勢の人と一緒にカビから避難し、高層ビルの屋上から地上を眺めていた少女が、おぞましい蛸の出現に、震えながら母親にしがみつく。
母親はそんな少女を優しく抱きしめると、彼女に微笑んで見せた。

「大丈夫、あの蛸さん達は正義の味方よ」
「なんでわかるの?」
「前に私を助けてくれたのは、あの蛸さんの仲間だからよ」

母親の言葉が終わった途端、ビルが大きく揺れて傾いた。
ビルの1階にメルビ星人の群れが到達し、破壊活動を始めたのである。

「ああああ!!」

大勢の人と共に、ビルから落下して、メルビ星人の塊に落ちていく母子。
そこに横合いから素早く無数の触手が伸び、母子と大勢の人々を一人残らず救い上げた。

「地球の人々よ、我々はボセダ星惑星種保全軍だ。君達の文明を脅かすカビと戦う為に来た、恐れる事はない」

人々を触手に掴んで庇い、倒壊しようとするビルを支え、メルビ星人を巨大な口で食い荒しながら、テレパシーでそう語る、無数の触手を持つ蛸の様な宇宙人、ボセダ星人。
かつてこの星を訪れた彼らの恒天観測員がこの星を襲う多数の侵略星人の存在を発見し、彼等はこの星に巨大な危機が迫っている事を察知して、身の危険も顧みず助けに来てくれたのだ。

「本当だ!蛸さんいい人達なんだ!」

ぱっと笑顔になり、そう叫ぶ少女に、ボセダ星人の目が優しく微笑む。

「そうだ!もう安心だぞ!」

少女に頼もしくそう言って、触手につかんだ人々を別のビルの屋上に移すボセダ星人。
助けられた人々と、周囲の建造物から大歓声があがる。

「頑張って!蛸さん!!」

少女の声援に応える様に、ボセダ星人達はあっという間にメルビ星人を食い尽くし、全滅させた。






赤い雨を降らし、カイロ市街を全滅させ、悠然と進むバルデリオ星人。
あらゆる物体を溶かす赤い雨に守られたバルデリオ星人に対し、エジプト軍は成すすべが無く、その進撃を阻止できる者はいない…はずだった。

「オヒョヒョヒョヒョヒョヒョ」

奇妙な笑い声が響き渡り、突如、空から紙吹雪の様な物が降り始めた。
すると、赤い雨は止み、上空の赤い雲が突然消滅し始める。
驚愕するバルデリオ星人の前に、空から三人の宇宙人が降下してきた。

「まだ幼い文明を襲い!罪もない民間人を虐殺するなど、言語道断である!!非道な侵略星人よ!このワシが成敗してくれる!!」
「…それ爺ちゃんが言えた事じゃないからね」

地球人に似た三人の宇宙人達、その三人の中で一番太った色黒の星人が声高らかに宣言すると、それに横から一番年若い外見の、色黒で耳の長い宇宙人が突っ込みを入れる。

「オヒョヒョヒョヒョヒョヒョーヒョヒョ」

最後の一人、髪が長く、鼻の下に長い髭が生えていて、顔が細長い宇宙人は、奇妙な笑い声を上げながら手にした扇子から紙吹雪の様な物をまき散らし、上空の赤い雲を消していく。

「カズアキおじさん、その調子で頑張ってくれ」

顔長の星人、カズアキにそう指示し、自身はバルデリオ星人に向かって構えをとる、若いマルド星人、ヴェルナス。
彼はかつて祖父と叔父が認知症の為に地球人類を襲撃した際の罪を償うため、こうして地球の危機に駆けつけてきたのだ。
なお、祖父、叔父はいつの間にかついてきており、本来連れてくる予定はなかった。

バルデリオ星人はヴェルナス達に気づくと、瞬間移動に近い速度で距離を詰め、紙吹雪を撒くカズアキに腕の刃を見舞わんとする。
だが、間に割って入ったヴェルナスがその刃を両手で受け止め、逆立ちして星人の頭に連続で蹴りを叩き込んだ。

「宇宙カポエラの技のキレ、味わえ!!」

ヴェルナスの蹴りを受け、後退するバルデリオ星人。
しかし、星人の体には大した傷はついておらず、星人は姿勢を戻したヴェルナスの飛び膝蹴りを回避すると、ヴェルナスの体を素早く袈裟懸けに斬りつけた。

「うわっ…」

怯むヴェルナス。
バルデリオ星人はそこでヴェルナスの背後に回ると、更に斬撃を見舞った。
一度はカラテレンビクトリーを撃破し、大宇宙にその強さを響かせているバルデリオ星人を相手にするには、ヴェルナスはまだ若く、未熟だったのだ。
ヴェルナスの技をことごとくかわし、防ぎ、斬撃を見舞っていくバルデリオ星人。
流血しながらも、何とか反撃せんと蹴りを放つヴェルナス、それを容易く弾き、星人が更に斬撃を見舞おうとした、その時、何者かが星人の腕を背後から捉え、思い切り握り潰してしまった。
腕を潰され、苦しみながら振り返るバルデリオ星人。
そこには、黒い巨体を怒りで震わせた、ヴェルナスの祖父の姿があった。

「…ヴェルナス、下がっておれ」

それだけ言って、勢いよく拳を放つヴェルナスの祖父。
バルデリオ星人は回避できず、拳をもろに喰らってよろめいた。
そこに、更に拳を放つヴェルナス祖父。
それは、認知症でまともな行動できなかった老人の動きではなかった。

「お前のじーさんはな、従軍はしとらんかったが……かつて宇宙道徳を守る為に戦っとったんじゃ」
「え…」

祖父の意外な強さに、呆然とするヴェルナスの横に、先ほどまで奇声を上げて扇子をふるっていたカズアキが立って、そう言った。
空の赤い雲は、すでに完全に消えている。

「聞いてないよ、なら…何であんな馬鹿な真似したんだよ」
「……」

凄まじい力を込めて振るわれた拳を受け、バルデリオ星人の首が吹き飛び、頭が宙を舞った。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

勝利の雄たけびを上げる、ヴェルナスの祖父。

「……老いだけは、どうしようもない」
「マジかよ……」

祖父を大切にしよう、カズアキの言葉に、何の見返りももらわずに数百の星を守り抜き、その疲れから母星に戻った後強力な認知症になってしまった英雄の孫は、そう誓ったのだった。






キャンベラの街を蹂躙するロボット群とトカゲ型宇宙人、グライカロット星人の頭上から、太鼓の音が響き始めた。
突然の事に警戒する侵略星人群。
と、突然その周囲に「御用」と書かれた提灯が現れ、熱線を放ってエゼロ星人のロボットを破壊しはじめた。
仲間を破壊され、提灯目掛けて応戦しようとするロボット群。
だが、ロボットの火器を提灯は容易くかわし、反撃の熱線を受けてロボットは次々と破壊されていく。

その様子をビルの上から見ていたババム星人が、超能力を使うべく腕を向けた、その時、星人の胸を高速で飛んできた扇子が貫いた。
血を吐いて倒れ、燃え上がるババム星人。
エゼロ星人とビーヘイト星人が扇子の飛んできた方向を見ると、そこには花魁姿の女性の姿がった。
かつて大怪獣ヘルクラーケンを地球に送り、カラテレンビクトリーによって侵略を阻まれた、ジャン星人である。

「一度捨てようとした命じゃ…」

剣を抜き、ジャン星人に斬りかかっていくビーヘイト星人。
ジャン星人は広げた扇子でビーヘイト星人の刃を受け止めると、かんざしを髪から引き抜いてビーヘイト星人の首に突き刺した。
崩れ落ち、炎に包まれるビーヘイト星人。

「こんな使い方も…アリ、であろ?」

ジャン星人に背を向け、逃走しようとするエゼロ星人。
それ目掛けてジャン星人は開いた扇子を投げつけた。
扇子は白熱しながら飛行し、エゼロ星人の胴体を切断して真っ二つにする。

「ふふっ」

薄く微笑むジャン星人。
その背後で、グライカロット星人が御用提灯型の攻撃兵器から熱線の集中砲火を受け、爆発四散した。






日本、某所。
ンモデルガⅤの放った拳がパンゲアラ星人の腹を貫き、ビッグジャングルの放った蔓がベベロッタ星人を締め上げ、体を寸断した。
2体の星人の亡骸は燃え上がり、それに伴ってべべロタ星人によって変化させられていた地上の人々は、元の人間の姿へと戻りはじめる。
それを確認し、安堵しつつ、ンモデルガⅤは、改めてビッグジャングルの方を向いた。
このビッグジャングルが、明らかに知性を持ち、人間の為に戦ってくれた事は間違いない、が、その正体がわからない。
彼女がビッグジャングルに警戒心を持ったその時、ビッグジャングルの全身の蔓と花がみるみる枯れていき、地面に崩れていった。
驚き、慌て、屈んでビッグジャングルを心配するンモデルガV。
と、枯れたビッグジャングルの残骸の中から、セーラ服姿の少女が這い出してきた。
それを見て、ンモデルガⅤも体を縮めて元の大きさに戻り、少女へと近づいていく。

「その……ありがとうございました」

近づいてきたンモデルガⅤ…白藤に気づくと、開口一番少女、輪はお礼を言った。

「え?あ…いや、こっちこそ」

突然のお礼に、少し動揺し、頬を染めながら返答する白藤。
それを見て、輪もはにかんだ笑みを返す。
二人は自然と、笑いあった。






「……信じられん」

各地で自分が送った侵略星人達が敗れ去っていくのを見て、驚愕し、震えるシャーニイト星人。
幾多の惑星を滅ぼしてきたシャーニイト星人だったが、他の惑星の星人、しかも、カラテレンビクトリーに敗れた星人までもが加勢に現れるなど、初めての事だった。

「何故だ?」
「こんな事は今まで無かった」
「おかしい!何かがおかしい」

動揺し、3っつの顔でそれぞれ喋るシャーニイト星人その背後で、悲鳴が上がる。
星人が振り返ると、そこでは着流し姿の宇宙人がニイトキングの足を切断し、カラテレンビクトリーを救出している最中だった。

「何も、おかしい事はない」

着流し姿の宇宙人、ケンゲキオーゼットは、カラテレンビクトリーに手を貸して立ち上がらせながら、語る。

「幾多の戦士を殺した事で宇宙の人々がお前を強く敵視し、協力して立ち上がったのだ!」
「があああああああああああああああああああ!!」

激昂し、腕から衝撃波を放つシャーニイト星人。
だが、ケンゲキオーゼットとカラテレンビクトリーはそれを飛びあがってかわし、背後から襲い掛からんとしているニイトキングに飛び掛かった。
鋭く振るわれるニイトキングの拳をかわし、その胸をZ字に切り裂いて、刀を突き立てるケンゲキオーゼット。
そこにカラテレンビクトリーが飛び蹴りを見舞って、刀をニイトキングの胸に更に深々と突き刺した。

「ウウウウウウウウウ」

断末魔を上げながら、両手をふるって両者を攻撃するニイトキング、だが、カラテレンビクトリーが正拳突きでそれを弾き返し、ケンゲキオーゼットがその隙にニイトキングの胸に刺さった刀を引き抜いて、空高く飛び上がる。
妨害しようとケンゲキオーゼットの前にシャーニイト星人が瞬間移動してくるが、ゼットの後ろから飛んできたビクトリーが加速してゼットを追い越し、拳を放って撃退した。
ケンゲキオーゼットはその隙にニイトキングめがけて加速し、その体を頭から一刀両断する。

「ウウウウウウウウーーーウーーーーーー!!」

真っ二つにされ、倒れ伏し、燃え上がるニイトキング。

「シャーニイト星人、覚悟!!」

続いて、カラテレンビクトリーがシャーニイト星人目掛けて正拳突きを放つも、瞬間移動でかわされ、反撃に星人の右手のコルク抜きが放たれる。
それを弾き、回し蹴りを放つビクトリーだが、やはり瞬間移動でかわされてしまう。

(瞬間移動を破らねば!)

シャーニイト星人は相手からの攻撃に自動的に瞬間移動で回避する能力を持っている。
この能力で、シャーニイト星人は今まで多くの宇宙格闘家を打ち破ってきた。
だが、星人には大きな誤算がある。
それは、カラテレンビクトリーが、過去に出現した星人を倒す為に、瞬間移動を破る特訓をしていた事だ。

ビクトリーはわざと星人から距離をとり、正拳突きの構えをとる。
正拳突きは届かない距離ではあるが、何事かと警戒し、衝撃波を放つシャーニイト星人。
だが、衝撃波は間に入ったケンゲキオーゼットの刀で両断され、無効化される。
その一瞬、ゼロコンマ何秒、ビクトリーは全能力を加速にあて、星人の能力が発動するよりも早く、星人に到達し、渾身の体当たりを見舞った。

「がばっ!!」

凄まじい衝撃に胴体の顔をつぶされ、動揺する星人。
その一瞬の隙に、ケンゲキオーゼットの渾身の居合抜きが星人の顔面に飛んでくる。

「ギャ!!」

かろうじてかわした星人の右側の顔を、ケンゲキオーゼットの刀が切り裂いた。

「宇宙空手奥義!!超・百裂拳」

トドメに、カラテレンビクトリーが無数の拳をシャーニイト星人に放つ。
体に多大な負担がかかっているのだろう、全身の傷という傷から血を噴き出しながら、それでも構わずに拳を連打するビクトリー。
それを受け、断末魔も残せず無数の拳の雨を受けて塵と化すシャーニイト星人。

「勝った!!」

カラテレンビクトリーはそれを確認すると、地面に膝をつき、崩れそうになりながら、しかし、よろよろと歩き、星人が持ってきた宇宙戦士達の腕で作ったオブジェの前に行く。

「…勝ったぞ!」

腕達に手を置いて、勝利を宣言した後、崩れ落ち、ビクトリーは光になっていく。
後に残されたケンゲキオーゼットは、それを見て、静かに頷いた。

世界中が大歓声に包まれ、人々は口々に喜び合い、涙し、自分達を助けてくれた存在達に感謝の意を述べ、人々を助けに来た宇宙の戦士達は、わずかの報酬も受け取らず、手を振り、笑みを浮かべ、元の場所へと帰っていく。
それは、最後まで諦めない不屈の心が、宇宙道徳を守る鋼の意思が、命を尊び他人の幸福を願う愛が、侵略王という邪悪を打ち破った瞬間だった。

       

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