「日比野英造ゥ!何故俺が絶体絶命のピンチにカーリーに変身できたのか。何故ガシャットを生み出せたのか。何故変身後に頭が痛むのくわァ!
その答えはただひとつ…日比野英造ゥ!俺がアクターバトルで始めて…戦闘中の変身能力を持った男だからだァ!ブァーハハハアーハハハソウトウエキサーイエキサーイハハハハh!!!」

 ごん。部屋の姿見を指差して奇声を上げていた俺の後頭部に開けられたドアノブがぶつかる。鏡越しに見えたドアの隙間から覗いたツインテールの片端が膝を付いて笑う俺を見下ろして死んだ目をして言った。

「家で“神”のモノマネするのやめてくれる?ご近所迷惑」「ああ、すまん。新たな能力を手に入れて気分が高揚してて…で、なんの用?晩飯にはまだ早いけど」妹の六実が呆れた表情で俺に封筒を手渡した。

「おいなんだ、請求書か?」「ローンが組める立場じゃないでしょ。真面目に働け」六実の嫌味にめげずに封筒を裏返すと宛名が『安倍繁和』となっている。安倍さん…思い立って俺はその手紙の封を切る。

『拝啓、日比野英造さま。

 堅苦しい季節の挨拶は抜きにしていつも実況をしている調子でお礼を書きたいと思っています。まずは先日の誘拐事件、都内の自宅の方まで駆けつけて頂きありがとうございました。

 私は貴方達の戦闘中に別口で救助に来たアクターのひとりに身を匿ってもらい、事なきを得ました。彼の素性と連絡先はご興味あればお伝えします。

 私自身、アクターとしての変身能力を持っておらず守って貰ってばかりの立場で歯がゆい思いですが皆様が無事にこのアクターバトルを勝ち抜いてご自身の夢を叶える事が出来るよう心から願っております。

 今後、このようなご迷惑を掛ける事が無きよう、情報漏洩には細心の注意を払って実況を続けて行きたいと思っております。末筆ながら、ますますのご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。

 ゲーム実況者 アベピーより』

「お、おい!」俺は手紙を読み終えると部屋に戻ろうとする六実を廊下で呼び止めた。「なぁに?きもいんだけど」「アベピーだよ!お兄ちゃん、アベピーから手紙が来たっ!」「はぁ…」

 浮かれる俺とは対照的に六実はうざったそうに視線を落とした。「なんかの詐欺じゃないの?東京に居た時、女の人に騙されて高級羽毛布団買わされてお父さんに泣き付いてたよね?」「そ、そんな大昔の事なんて知るかっ!ん、この手紙続きがあるぞ」

 手紙の折り目に小さな文字で一行添えられている。『 P.S. 手紙が届く日の17:00ちょうどに新作動画をアップします。よかったらご覧になってください。』「安倍さん…」俺は時計の時刻を確認すると居間のパソコンの前でその時を待った。

 ―あれから超最強学園のメンバーは動画投稿を行っていない。アベピー、アルスクの二大巨塔の喪失によりゲーム実況界は次なる旗手を夢見て連日数多くの新人YouTuberによる投稿が行われている(ちなみに俺もフリゲを実況してあげたんだけど、全然伸びなかった)。

 PC右下の時刻が17:00になるとアベピーチャンネルに実に一ヶ月ぶりとなる新作動画がアップされた。そのタイトルは『アベピー、模型制作を始める』。俺はそのサムネにゆっくりと指を落とした。

 読み込みの渦が回る黒転した画面を奥から六実が覗いている。動画が再生される。ちゃぶ台の前に座って指を動かすバストダウンの人物がカメラに向かって声を伸ばした。

「はいどーもアベピーですぅ。えー、しばらく動画投稿の方、お休みさせてもらったんですけど、今回から実写動画、身近にあるもので模型工作の方やって行きたいと思ってまーす」

「おいおいおい…」驚きと喜びでディスプレイのへりを掴んでいた。「へぇー。成功してたゲーム実況辞めて新しくハウツー動画ねー。悪い方に行かなきゃいいけど」「いや、安倍さんはコレでいいんだ」

 六実の小言を退けて俺は画面の奥で不器用に工作を始めた安倍さんの手元を見守る。自分の好きな事をやって、自分が思ってる事を言って、それで稼いで生きていく。それこそがYouTuberアベピーの生き様だ。

 新たな一歩を踏み出したアベピー最初の意思表示。その動画のリンクには俺が以前投稿した『パンとか留めるヤツでトリケラトプスの標本をつくってみた』part1の動画が付けられていた。


第六皿目 初めて釣りに行った日の事憶えてる?自分だけボウズでブチ切れて女子トイレにイソメぶちまけて帰ったわよね

 -完-