Neetel Inside 文芸新都
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 そもそも何故、俺達がこんなジャイアン政権に大人しく従っているのかというと、
この頼れるリードオフマンがジャイアンであるからに他ならない。

「どちらかと言えばよう、俺はMだけどよぉ……ここまでじゃねぇよ」

 三球三振、ベンチに下がりながら俺は己の境遇を嘆いた。腕っ節がジャイアンで脳味噌
が出来杉君とでも言おうか、健太郎はそんな男だ。不良に絡まれているところを助けても
らった、家出して行く当てもなく寒空の下震えていたところをしばらく家に居候させても
らった、煙草を持っているところを教師に見付かり詰問されそうだったところを見事な手
品で物的証拠を隠してもらった……などなど、恩をたっぷり売っているくせに恩着せがま
しいところのない男気や、学年の五本指に入る明晰な頭脳、見ての通りの行動力とか……
根本的な人の良さも含めたカリスマ性に俺達が引き寄せられていると言われればその通りだ。

「さて、一回の表は得点圏にランナーを進めたが運悪く無得点になった」

(運悪く……)

 俺にテレパシー能力は無い。だが、八人が一糸乱れぬ絶妙なハーモニーを心の中で奏で
たのを俺は確かに聞き取った。
 一回の表が終了して、守備に入る前に健太郎がベンチ前に俺達を集めた。グラウンドの
周囲を取り囲んでいた野次馬達は、圧倒的な戦力差を目にして軒並み帰宅の途についてし
まったようだった。閑散としている。

「お前等もきっと負けた時の事を心配しているのだろう。………安心しろ、逃走手段は用
意してある」

 八人の青ざめた顔が並ぶ円陣が一瞬どよめく。

「とは言え健太郎さんよ、この衆人環視の中どうやって逃げる気だい?」

 俺は、この自信と好奇に満ちた健太郎の表情に嫌なモノを感じ、尋ねた。

「学校の隣の駐車場に車を用意しているぜ!」

 再びどよめき。

「笠原さんはダブッてるから大丈夫だね!!」

 笠原さんは病気療養による出席日数不足で留年した十八歳。クラスではほぼ皆が気を使
って敬称が付ける。
 遠慮の無い健太郎の言葉だったが、七人の顔色は血の気を取り戻してきていた。
 しかし

「ほら、ここからでも見える。あれ!あれ!」

 ぴょんぴょんと跳ねながら、健太郎が高々と指差す先に見えたのは

「……まー、立派なスピーカーに国旗、素敵な金色のお花のエンブレム」

 抑揚の無い笠原さんの感想。俺の心臓が一気に動きを速めた。

「とととととととと、とと盗難車じゃねーか健太郎!!」

 しかも、どうみても右翼です本当にありがとうございました。

「まーまー、とにかく逃げ切ればなんとかなるって」
「冗談じゃねーぞ!!あんなので逃げたら男根でほじくられはしねーけど後々弾痕をほじ
くられかねねーじゃねーか!!」
「あら、豊さんお上手ぅ。座布団一枚ッ」

 色んな意味で尻に火が付いた状態だ。
 相手チームの背番号四が俺達に、早急に守備位置につけと促している。
 いかん、中村は守備位置とは逆方向に羽ばたこうとしている。

       

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