Neetel Inside 文芸新都
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スカッ

「!!」

ポロッ

「………」

ドゴッ

「これは……」

 蔵野先輩……。

「こんな球カン無い野球部員初めて見たよ……」

 同感だ。しかし井上さん、耳打ちで舌打ちされると妙にエッチだ。
 確かに、健太郎の打者の膝元から胸元までせり上がるような高速回転のアンダースロー
を初見で捕球するのが簡単ではないのは認めるけど

「蔵野先輩、鼻血出てます!」

 さすがに目で追えない程ではないのだが。なんでこんな人が正捕手なんだ?大体構えた
場所からミットを動かさなければボールが勝手に飛び込んでくれるというのに。

「それはな……」

 井上さんの次に突然の野郎の耳打ちだと、妙に負の感情に精神を支配される。ジョシュ
主将に悪気はないけど。せめて肩を叩くとかは気を使って欲しかった。

「学生時代に野球部で、特にキャッチャーやってたって言えば、企業はまずマイナスな判
断をしないだろ?」
「あぁ、なるほど……」

 ジョシュ主将の説明に納得はしたが、ますます桜井が気の毒になった。

「……意外とキャプテンは新入部員に気を使ってるみたいね」
「確かに、しなくても良い説明までするんだから」
「でも桜井君の耳に入らないように気を付けなきゃ」

 目の前では呆れ気味の健太郎が、ストレスの大きそうなセーブされたフォームで、びっ
くりするくらい山なりのボールを、蔵野先輩の構えるミットに置いていた。

「先輩!シンカー投げます」

 健太郎はそう言って、ボールを握った手首を軽く捻るジェスチャーで示した。

「捕れるかな?」

 と井上さん。

「初見の下手投げシンカーとはいえ百も出てないボールだから多分……」

ガッ

ゴッ

「ふぐっ!!」

 擬音と唸りの見事な三拍子で繰り広げられたのは、バウンドしたボールにまったく反応
出来ず、ミットではなく股間で捕球した

「あんちゃん、多分……何?」

 蔵野先輩というスペクタクルな光景だった。

「桜井……呼んでくるわ」

       

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