Neetel Inside 文芸新都
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08 まるでダメな友人

この学校が、文化部の部活を掛け持ちできる事を知ったのは6月頃のことだった。
文学部の2年生3人が、アニメ漫画研究会と掛け持ちしているという衝撃の事実が発覚したからである。

ある日、文学部の集まりで図書館に行くと彼はいた。
忘れもしない。入学式の日、部活動紹介でアニメ漫画研究会の代表として
語尾に「ニョ」をつけて喋っていたあの人だ。

その異世界人と自分の部活の先輩が親しげに喋っているのを見てしまったのである。
そしてどういう事か尋ねて、先の掛け持ちの事実が発覚したのである。

この時、私はその人と自己紹介をして少しおしゃべりをしたが、
時々何を言ってるのかわからないところもあるが割と普通の人だった。
普段から語尾に「にょ」を付けているわけではないらしい。
あれはあの日だけの特別なのだそうだ。

なんていうか、自己紹介でアピールしようとしてかえって痛々しくなったみたいな
ダメな例である。
あんな紹介じゃアニメ部(以降は面倒なのでこう略す)には新入生なんて入っていないだろうと思っていたのだが。

なんと6人入ったらしい。文学部は2人。2.5倍もいる。
私は混乱した。

あの部活動紹介で入部する人がいるなんて……そんな馬鹿な……
その時私は、世界の広さを知った。

このうち4人と、私は後の人生においても大きく関わる事になる。
だがいまはひとまず置いておき、この場で親しくなったのは1人だ。
その中に、クラスメイトがいたのである。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



このアニメ部に入っていたクラスメイトについて紹介しよう。
彼を仮にリノと呼ぶことにする。(さすがに実名はまずいのではぐらかす。まあ本人が見たら即バレするだろうが)
リノは見た目はひょろっとしている。身長180センチとクラスでも大きい方だが、痩せている。
だが不思議と見た目からはオタクらしさは感じない。

オタクのイメージと言えば、牛乳瓶の厚底のような眼鏡、極端な体型、ボサボサの髪。
リュックサックにTシャツジーンズファッション。
そんなイメージがあると思う。

だがリノは全然違った。
休日、リノと映画を見に行くことになった。
「APPLESEED」という、押井守のアニメである。
すごくリアルな3D映像ということで、当時ちょっとした話題にもなった。

待ち合わせに来たリノは、ニットキャップを被り、首にはネックレスをかけ、
センスのいいジャンパーとすらりとしたズボンを履いていた。
髪は美容院にいったのか整っていて、今もワックスをつけている。
渋谷や原宿にいても違和感のないファッションだった。

「待たせちゃったかな、悪いね」

集合5分前である。しかもキラキラの笑顔。
彼自身、結構なイケメンな事もあって相当に眩しかった。
自分が女なら映画の後はホテルに直行してもおかしくない程に魅力的に見えていた。

「そういえば、昨日の深夜アニメのアレ見た?」

だが口から出る話題はアニメかゲームの話で、しかも相当ディープである。
口を開けば美少女がどうとか、ヒロインがかわいいとか、幼女最高とか
そんな事をマシンガンのように言っているのだ。

残念イケメンとはまさしく彼のためにある言葉だと、私は思う。


中学時代までバリバリのスポーツマンで、
読んだ漫画といえば少年ジャンプ作品、オタク作品で知っているのはせいぜいエヴァぐらいの私では、
彼のディープな話についていくことはできない。
オタクとしての知識量は、湖と水たまりぐらいの開きがある。

そんな私と話していてもリノは気分を損ねず、
私にわかりやすく色々な事を解説してくれる。

まあ何はともあれ、彼が高校ではじめてできた休日も遊ぶ気の合う友人となったのは間違いない。





「君ってどんな小説書くの?」

映画が見終わり、感想もひとしきり話し終えると、彼は私にそう尋ねた。
文学部の私の作品は読んでいないらしい。

まぁ友人だからって、作品に興味を持ってもらえるかは別だ。
高校生の自作小説を読むぐらいなら買った本を読んでいる方が100倍有意義なのは私も認める。

私は素直に答えた。

「実はあまり小説って読んだ事がないんだ。
 漫画はよく読むだけどね。だからいまいちピンとこなくて」

この言葉に、彼の目の色がはっきり変わった。
炎が爛々と輝き、捕食者が草食動物を見つめるような危険な眼光を宿していた。

オタクによくありがちなアレである。
「こっちの世界にどっぷり浸からせてやろう」と。

翌日から、彼は学校で色々な本を私に貸してくれるようになった。
これが、私がラノベというものに触れた初めての機会だった。


「ブギーポップは笑わない」「キノの旅」「ダブルブリッド」「キーリ」「ウィザーズブレイン」

名だたる作品群である。
彼の作品を見る目は卓越していた。


ラノベというものをまったく知らなかった私にはどれも面白い作品ばかりだった。
ダブルブリッドの1巻を読んだときは、感動の余り泣いてしまった。
小説を読んでガチ泣きしたのはあれがはじめてだ。

元々知識などないのだから、彼の英才教育によって、
中学までバリバリのスポーツマンだった私は、1学期を終える頃、
立派なオタクの道に足を踏み入れており、彼の話にもある程度ついていけるようになっていた。
彼も何かやりきったような顔をしていた。


そして夏休みに入ろうかというところで、再び文学部の先輩に呼び出された。
そしてこう言われたのである。

「文化祭ですごいの1冊出すから、夏休み中に何か大作を仕上げてこい」と――


       

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