Neetel Inside ニートノベル
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インターネット変態小説家
ドローン

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とある小屋。
森林かき分けて進んだ先にある小さな小屋の中で、僕は一人の女性とお茶をしている。
香りの良い紅茶だ。森で作っているらしい。
ベリーが置いてある。これも森でとれるのだろう。

小さな小屋は、こんな森の奥にあるにもかかわらず、とても綺麗で設備が整っていた。
甘い匂いがするのはタルトを焼いているからだ。オーブンがある。
電気が通っているのかと尋ねたら発電機があるとのこと。
水道等も通ってはいないらしく、雨水や川の水なんかを組み上げ濾過し、その後特殊な浄化システムできれいな水にするらしい。
出来た水はその辺の町の水道水よりも綺麗なんだとか。

この場所は……ドローンで見つけた場所だ。
ドローンとは無人航空機を意味し、僕が持っているものでいえばカメラを搭載した高機能なラジコンヘリみたいなもので、こちらのリモコンからかなり遠くまで自在に操縦できる。
ある国では資格が必要だったり、長距離の飛行が禁じられたりしているがここでは全くの自由だ。
僕は自然科学系生物学を専門に研究している学者で、今回は上空から森の撮影をしていたのだった。
飛ばしているのは特殊な静音ドローンで、ほとんど音がでないはずだがそれでも野生動物は気配を感じ取り慌て逃げ惑う。
可哀想なのでなるべく刺激しないように上空から、通常であれば踏み込めない様な奥深くまで映像を撮っていた時、とある小屋を見つけた。
この森は長いこと誰も足を踏み入れていない。
それなのに、綺麗な小屋だった。建てたばかりのように。

僕は気になりドローンを近づけようとしたが、なんらかの罠に引っかかり撃ち落とされた。

トラッパーだ。
こんな森の中で何の罠を張っているのだろう。それにあの小屋は……。
森の中に住む不思議な人物の正体が知りたくなって、僕はもう一台ドローンを飛ばした。
運搬用のドローンだ。上空から荷物を小屋付近へ落とす。今度は何も作動しなかったようでそのまま道へ落ちた。
箱の中には手紙と食べ物、調味料なんかを入れておいた。
きっと必要なんじゃないかと思ったからだ。
手紙には『後日そちらへお邪魔します』と。

用心棒を雇った。一週間。これで800万ほどかかった。
高いが腕はいい者を、3人。
森を進み続ける。森には野生動物が棲む。
もちろん中には凶暴なものもいる。
そういうのは用心棒がきっちり倒す。
小屋まで3日かかった。
用心棒は一人死んだ。
トラップを確認しながら進むが、特に仕掛けられていないようだ。手紙を見て解除してくれたのかもしれない。
小屋が目視できるとやはり、その美麗さに感心した。
森の中でよくここまで……そこだけ別世界のセットを持ってきたような不自然さがあった。
ドアをノックする。
小屋の中はいい匂いが漂っていた。
はい、と声がして中から住人が顔を出した。
綺麗な女性だった。

冒頭に戻る。
俺は今お茶をご馳走になっていた。
用心棒の一人は最初、人から出されたものは食べないなどと言い突っぱねていたが、タルトが出てきてからはパクパク口に運んでいる。
なんだこいつ。

話を聞くと彼女は魔女らしい。
森の中にいるのも小屋が綺麗なのもそういうこと。
トラップの仕組みもいくつか魔法を用いていると。

こちらが送った品はとても助かったそうだ。
これからも定期的に物資を送ることを約束し、その代わりに特別なフェロモンの詰まった瓶をくれた。
これを焚くことで動物が警戒しなくなるらしい。ありがたく受け取った。

帰りに用心棒の一人がその瓶を売り捌こうと襲ってきたが、もう一人の用心棒が殺した。
僕は報酬を上乗せし、その用心棒と別れた。

研究はかなり捗った。ある程度の名声を得た。物資を送る関係も長く続いたがこの国にもドローンに関する規制ができたため物資を運べなくなった。彼女にそのことを伝えるともう十分もらったからいいとのこと。
また今度直接足を運ぶかな。


ある日森が焼けた。轟々と焼けあがり火柱が上がる森を見て心配になり、ドローンを飛ばした。
魔女の家には兵士がいた。どうやらこの魔女は帝国と関わりがあったらしい。
手配されていたのかもしれない。
兵士たちはかなり綿密に計画していたのだろうか、完全に魔女を押さえつけていた。
小屋を焼き、魔女を縛ると手足をもいだ。袋叩きだ。槍を突き刺し、魔女は叫ぶが死なない。魔女はそんなことでは死なないのだ。帝国側の魔術師が呪文を唱えると魔女は燃えた。燃えても燃えても死ぬことはなかった。
兵士たちは首を切り、喉に槍を突き刺すとその槍を地面に立て帰っていった。
魔女の首は燃えていた。

後日、僕は用心棒を連れ小屋へ向かった。
用心棒は彼だけでいいことを前回学んだので、今回は報酬を数倍にして彼一人を雇った。
彼は冷たくこちらを切るような目をしていたが、任務には忠実だった。仕事中は喋らないやつだ。
そういえば、彼だけはタルトを食べてなかったような……

小屋に着いた。魔女の首らしきものが槍の先にこびり付いていた。
炭化していた。それでも喉の奥からひゅーっひゅーっと空気がなる音がしていた。
まだ生きているのか。どういう仕組みなんだ?
僕は用心棒に「なんとかならないか」と聞いたが、用心棒は来た道を振り返りながら

「もうダメだな。あんたは首を突っ込みすぎた。悪いが契約は破棄だ。」

と呟いた。
彼の声は初めて聞いた気がする。

彼は僕の首を撥ねとばすと、魔女の頭を槍から引き抜き特殊な袋に詰めた。

後ろからは兵士が来ていた。
どうやらセンサーか何かでドローンの飛行を把握したらしい。
用心棒は兵士に僕の首を見せるといくつか言葉を交わし、そのまま帰っていった。

兵士の一人が僕の首を焼けた小屋の方へ蹴り上げると、ちょうどまだ地面に立っている槍の先に刺さった。

兵士たちからわぁっ!と歓声が湧いた。

       

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