Neetel Inside ニートノベル
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(四)

「久しぶりに出てきたかと思えば、どうした息を切らして」
 窓の外は橙色に溶かされている。校舎にいる生徒は少なくなっていたが、部室で運よく優作を捕まえることができた。
 優作は僕を見るなり、テレビ台から取り出した常温の缶コーヒーを投げてくる。
「ただごとじゃなさそうだな」
「ビップラ学園の知り合いを紹介してほしい」
 プルタブを開ける暇さえ惜しんで頼み込む。
「なるべく校内の人間について詳しくて、口が軽い奴がいい。優作は顔が広いだろ」
「ビップラ学園か。最近、生徒が殺されたところだな。それに関係ある用事なのか?」
「用事の内容は……話せない。少なくとも今はまだ。一方的な頼みだってことはわかってる。でもお願いだよ、この通り」
 腰を折って頭を垂れる。
「おいおい、頭を上げろ。人を紹介するくらいなら大した手間でもないし構わん。心当たりもあるしな。で、会う日はいつがいいんだ?」
「僕のほうはいつでもいい。でも、できるだけ早くしてほしい」
「わかった」
 優作はスマホを取り出して手際よく操作する。
 やり取りは円滑に進んだらしく、僕がコーヒーを飲み終わるころには終わった。
「いまからでも大丈夫だそうだ。駅前のモニュメントで待ち合わせ。情報を渡す代わりにおごれとさ。行けるか?」
「行ける」
「ビップラ学園の制服を着たキノコ頭の男だ。電話番号送るぞ。一応、向こうにもお前の特徴を伝えておく」
「ありがとう優作」
「礼には及ばんさ。用事が済んだら、事の顛末くらいは聞かせて貰いたいが」
「善処するよ」
 飲み終わった缶をゴミ箱に捨てて部室を出る。ロッカー周りの障害物を避けながら廊下を急いだ。
「きゃっ」
 曲がり角で、女子の集団に危うくぶつかりかける。
「危ないじゃない」
 と文句を言ったひとりは志麻子だった。相手が僕だと認めると目を白黒させる。
「陸人、学校来てたの!?」
「説明は今度。急いでるから!」
 お小言モードに入りそうな志麻子を置いて走り出す。振り返らなくても機嫌を損ねたがわかったが、二の次だ。
 そういえば、今日はバイトのシフトも入っていた。マスターに迷惑をかけるのは心苦しいが仕方ないだろう。僕には、あらゆる雑事を差し置いて優先するべき事項がある。
 もしかしたら僕はいま、破滅に向かって直進しているのかもしれない。それでも、止まれないのだ。
「志麻ちゃん、報われないねぇ……」
 遠ざかっていく背後で、志麻子の友人が言うのが聞こえた。

       

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