Neetel Inside 文芸新都
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昔々、ある砂漠に、一人の男が立っていました。
彼は立派な騎士の衣装に身を包み、ドラゴンと呼ばれる長い長いマスケット銃を持っていました。
傍らにはちいさなウサギ。

そんな滑稽な彼を、村のみんなは笑うのでした。
「今日び、そんな敵なんか現れるわけないじゃないか!!」
でも滑稽な騎士は、そんな彼らの言葉に耳も貸さず、昼夜を問わず一年中立ち尽くしていました。
時々、ウサギが食べ物を持ってきてくれます。
その、粗末な食べ物を口にするとき以外は、口を固く一文字に結んで、砂漠の遥か遥か向こうをじっとにらんでいました。

幾年も月日は流れました。
騎士のあごには白いひげが生え、身体はやせ衰え、あのきらめくような騎士装束はすっかり色あせてしまいました。
あのドラゴンも、すっかりさびついて。
変わらないのは、あのちいさな小ウサギくらい。
・・・もうひとつ、村人たちの罵声。

「敵」は、来ませんでした。
老騎士は良い笑い物!
ですが彼はそれを正義と信じて立ちつづけました。
さすがに、年老いてなお防人を続ける老騎士に、いくばくかのヒトは敬意を表しました。
けれど口には出しません。
老騎士の耳には、相変わらず罵声と、時々ウサギの小さな泣き声が響くだけ。

・・・彼は何を信じて、立ちつづけたのだろう。
こんな無意味なこと、普通の人間ならばあっというまに頭がおかしくなってしまうでしょうに。

そんな屈強な老騎士にも、最期の時は近づきます。
あの小さなウサギが、突然砂漠に倒れた老騎士に駆け寄ります。
老紳士はやっとマスケットを杖にして立ちあがります。
「心配してくれるな・・・私も騎士だ、最後くらいは自分でどうにかする」
小さなウサギの頭をやさしく撫でる騎士。
ウサギの目には、浮かぶはず無い涙がいっぱい、いっぱい浮かんでいました。

けれど村人たちはいつも通り。
「やーい、やーい、バカ騎士やーい!!」
子供たちがはやし立てていた、そのとき。
一発の光の矢が、子供たちに飛んでいきます。
おびえて立ちすくむ子供たちをかばったのは、ほかならぬあの老騎士。
助かった安堵感と恐怖で泣きだす子供たちをウサギになだめさせると、老騎士は銃を構えます。

「・・・カッコいい・・・・・・」

子供たちが目の当たりにしたのは、今までバカにしていた滑稽な竜騎士の、真剣で神々しいまでの姿。
必死に銃を構え、まっすぐに射撃する。
その弾丸は一直線に、見たこと無い鋼鉄の獣の身体を撃ち砕きます。
「逃げろ!ここは私が食い止める」
騎士はしゃがれた声で、子供たちに言いました。
子供たちは素直に逃げました。
「さて・・・ようやく!」
それは、まるでさびついていたような騎士が一気に生き返ったように。
男は嬉々として長い長い銃を構えます。
敵は大勢。こちらはあの滑稽な老騎士とちいさなウサギ。
どう見ても勝ち目は無いのに。


・・・何日も過ぎた。
砂漠を歩く、あの村のヒトたち。
彼らはみな、泣きながら。
あの小さなウサギもぴょんぴょんと。
なぜ泣いている?それは彼が亡くなってしまったから。
けれどウサギは知ってたよ?

彼が、最大の幸福と共に死んでいったことを。
騎士にとっての幸せは、守るべきものを守ること、なのではないか・・・そう思わずには、いられない。

       

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