Neetel Inside 文芸新都
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昔々、とある町の外れに、大きな牧場がありました。
そこには牧場主と三人の息子、そしてたくさんのウサギが暮らしていました。
牧場は開放されていて、休日にはたくさんの親子がウサギと遊ぶためにやってきました。
牧場の一家は、わずかな入場料でつつましく暮らしていました。

ところがある日、牧場主は病に倒れてしまいました。
二人の兄が知らんぷりする中、ただ一人末の息子が懸命に看病していましたが、その甲斐もなく牧場主は亡くなってしまいました。

牧場主は、広い牧場とたくさんのウサギを遺しました。
彼は死ぬ直前に、三人の兄弟にこう言いました。
「私は死ぬが、おまえたちには協力しあって、ウサギたちを守ってほしい」
息を引き取ろうとしている父を前に、三人は涙目で精いっぱいうなづきました。

次の日、三人の兄弟は話し合いでどうするかを決めることにしました。
ここで困ったのは、牧場にいるたくさんのウサギのことです。
三人とも、ウサギは大好きでした。けれど、好きな理由は三人とも違いました。
一番上のお兄さんは、ウサギのステーキが大好物でした。
二番目のお兄さんは、ウサギの毛皮が大好きで、いつもウサギの帽子をかぶっていました。
三人目の末っ子は、ウサギのあの優しいまなざしが大好きでした。

結論は出ませんでしたが、とりあえず三人は引き続き、ウサギの世話をすることに決めました。
二人の兄は真っ先に大きな檻をつくって、牧場のあちこちでのんびりしているウサギを集めては、放り込んでしまいました。
「ねぇ兄さん、どうしてそんなかわいそうなことをするの?」
窮屈そうな檻の中で悲しそうな目をするウサギを見て、末っ子が尋ねます。
二人の兄は笑いながら言いました。
「馬鹿だなぁ、こうでもしないとウサギが逃げちまう。俺たちはこいつらをうんと増やして市場に売ってやるのさ!」

冬を越し、春が過ぎて、緑鮮やかな夏になるころにはウサギはかなりの数になりました。
二人のお兄さんはウサギの世話を末の弟に任せっ切りで、いつもだらだらしていました。
一人黙々とウサギの世話をする末っ子は、檻の中の窮屈そうなウサギを見て、とても悲しい気持ちになりました。
押し込められ、体中すり傷だらけのウサギたち。端っこには、仲間同士のおしくらまんじゅうでつぶれて死んだウサギの姿もありました。

弟は決心しました。
「ごめんね、こんな狭いところに閉じ込めてしまって」
そう言うと、末っ子はウサギの檻の扉をあけ、ウサギをみんな逃がしてしまいました。
とっても月がきれいな晩、ウサギたちは久しぶりに、うれしそうに飛び跳ねました。

翌日。
どうもいつもと様子が違うと、一番上のお兄さんは珍しくウサギ小屋を覗きに行きました。
からっぽのウサギの檻。
お兄さんは怒って、二人の弟を問い詰めました。
二番目のお兄さんは、
「俺は知らない、弟がやったんじゃないか?だってあんなにウサギをかわいがってたじゃないか・・・」
と、他人事のように言いました。
末の弟は首を振って、
「ぼくはそんな事してないよ、兄さんたちがあんなに大切にしていたウサギを・・・きっと狼がやったんだ、そうに違いない」
と言いました。
そこで一番上のお兄さんは、末っ子を連れてウサギの檻に行きこう問い詰めました。
「狼がこんな鍵付きの扉あけるわけないだろう!おまえ以外に誰がいる!!」
そう怒鳴ると、怒り狂ったお兄さんは、納屋にしまってあった狼除けの猟銃を引っ張り出して、末っ子を撃ち殺してしまいました。

「兄さん、殺してしまったのか!?」
血みどろのお兄さんを見て、二番目のお兄さんは驚きました。
「ちょうど良かったじゃないか、どうせおまえも邪魔に思っていたんだろう?」
一番上のお兄さんは、ぞっとするような笑顔で言いました。
二番目のお兄さんは恐ろしくなって、
「あぁ、なんてことを・・・」
と、おびえていました。
一番上のお兄さんはその様子が気に入りません。そのうちに二番目のお兄さんは、
「警察だ、警察だ!!」
と叫んだので、一番上のお兄さんは恐ろしくなって二番目のお兄さんも撃ち殺してしまいました。
二人の血で真っ赤に染まったお兄さんは、狂ったように笑いながら、
「ウサギめ、どこ行きやがった!」
と、もう日の傾き始めた広い牧場へウサギの姿を求めて駆け出しました。

「食った食った・・・久しぶりのウサギのステーキはうまかった」
お兄さんは逃げたウサギを撃ち殺し、二人の弟の脳みそをつけ合わせにして食べてしまいました。
ところが食べ終わってふと我に変えると、自分はなんと言うことをしてしまったのだ・・・と、とたんに恐ろしくなりました。
震えは止まらず、お兄さんは風呂にも入らないでベッドへ入って眠ってしまいました。

その夜は、満月がとてもきれいでした。
まぶしい月の光に寝付けない一番上のお兄さんは、なぜか無性に気になってウサギのいたからっぽの大きな檻を見に行きました。
檻につくと、空っぽだったはずのその中にはたくさんのウサギが戻っていました。
夢かと思って頬をつねったり、目をゴシゴシこすりますが、どうやら夢ではなさそうでした。
「そうか、俺におとなしく飼われることにしたんだな?よしよし」
お兄さんは、ウサギの檻をあけました。

すると。
お兄さんめがけて、たくさんのウサギが飛びかかってきました。
お兄さんはたくさんのウサギたちにかじられて、跡形もない肉塊になって死んでしまいました。
ウサギたちは一斉に牧場から逃げ出し、後にはなんにも残りませんでした。

       

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Neetsha