Neetel Inside 文芸新都
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「ごらん 引力の庭」


ごらん 引力の庭に今
よろめく雲が落下する
放り上げられた芳香もまた
はにかむ花々へと還る

新緑の魔力 重力の訴求力の
たえまない手まねきが陽光をよびよせる
ごらん かぎりない歓呼に駆り立てられて
感応しあう香りの色合い
ひなびた影と陽だまりとをかじり
春めく頬にほおばるよう

だがあらゆる季節はいずれ背をむける
世界は卑劣な冷ややかさへ引きかえし
ひびわれた日々で人をひきつぶし
久しく昼の陽にひるみきっていた
悲惨な物陰の主たちも、氷雨のごとく
引きも切らずに降りそそぐ

ごらん 待てども陽はのぼらない
落ちぶれた光に重力はとどかない
あのほうき星に貸出すパラシュートすらもなく
墜落した星々の破片が、野草のあいだで
迷えるものの足裏を突きさそうとも
したたる月明かりは膏薬にならない……

ともあれ みなみなご照覧
この引力の庭に植え付けられた
やせていくばかりの盲目の樹木に
わたしは語り掛けているのだよ



(2020/5/3 Sun.)

       

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